最恐の狗神様は、笑わない少女陰陽師を恋う。


 しかし、それでも両親は紫陽を認めることはなかった。むしろ紫陽のやり方を「異端」と見なし切り捨て、涼風家の恥として隠すようになった。おかげで家族に愛される期待は完全に無くなり、感情も希薄になった。残ったのは陰陽師として人々を守らねばならないという正義感と技術だけ。

 ただ両親からの扱いのせいで一族の中でも腫れ物のように扱われるようになり、最近では妖退治の仕事も一切回されなくなってしまった。そのため、持て余した正義感と技術を活用するため、今夜のように一人でこっそり家を抜け出し町を見回っている。

 とはいえこのような見回りで特別強力な妖に出会うことはまずない。今目の前に突然現れた大物は、紫陽にとってあまりに衝撃的だった。


(この妖がその気になれば一晩でこの辺り一帯を灰にできる。私の手には余る相手。だけど)


 息を吸って、大きく踏み込む。


(この妖を祓うことができたら、人々が妖に怯えることなく安心して暮らせる世にまた一歩近づく)


 しかし、紫陽がそんな想いで勇んで繰り出した斬撃を、男はトンと軽く下がるだけであっさりとかわした。



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