最恐の狗神様は、笑わない少女陰陽師を恋う。
先ほどの戦いで体力を消耗している、などというのは言い訳だ。たとえ万全の状態だったとしても、これを祓うどころか傷を負わせることすらままならなかったのだろう。長く美しい白金色の髪一本切り落とすことさえできる気配がなかった。
そのまま体勢を立て直し二度三度と剣を振るうも、そのたびに軽い身のこなしで避けられる。
「おお、さすがに速いな。夜目が利くのか? 狙いが正確だ」
「っ……!」
「だが」
心にも思ってなさそうなことを言いながら剣先をひょいひょいと避けていた男が、ぴたりと動きを止めた。
奇妙に思ったものの、紫陽は大きく跳躍して正面から刀を振り下ろす。が……
「ぐっ」
刀が男に届くかと思われたその直前。キィィンと甲高い音と共に、何かにはじき返された。
痛い。
加えた力がそのまま自分に跳ね返ってきたようだ。思いがけない衝撃に耐え切れず刀から手を離してしまった。金属が地面に落ちる鈍い音が聞こえた。
動きが無かったせいで気が付かなかったが、霊力で何らかの術を使ったのだろう。
「そろそろ飽きた。決着を付けよう」