オリーヴィア様は薔薇が好き。
エリアス様と歳の近い私は一緒にお母様からレッスンを受けました。
もと女優のミーナ様も庶民の出でマナーはからきしダメということだったので、ミーナ様の指導もお母様がおこなったそうです。
愛人といえど、王の愛人なのですから、最低限のマナーは必要なのです。
ミーナ様は何事にも前向きに取り組む、とても強くて明るい素敵な女性ですので、すぐにマナーは上達し、この離宮で夜会を開く女主人となりました。
貴族の殿方にはミーナ様のファンが多くいらっしゃいます。
夜会を開けば今宵のように殿方がたくさんおいでになるのは当たり前のことです。
さてさて、エリアス様はもう十七歳。
近頃は女装に限界を感じるとご本人が告白してくださいましたが、まだまだ大丈夫そうに思えるのは私だけではないはず。
将来の夢は制限なしの筋トレと熱く語っておられましたが、当分はバレエのレッスンで我慢なさってください。
「ハァ……俺も男の格好で街中歩きたい……。堂々と買い食いとかしてみたい……」
「まあ!買い食いなど、はしたないですよ」
「はいはい。お行儀よく、だろ?」
「おっしゃる通りです」
「むっ……ガキ扱いすんなよ」
「してませんよ?」
「してるだろ!……もういい。着替え手伝って」
「かしこまりました」
エリアス様の着替えを手伝えるのは、私と私のお母様だけです。
この離宮で働く貴族の子女は他にもいらっしゃいますが、秘密を知るのは私の家族だけなので他の方は手伝いません。
つまり私が結婚してしまうと、エリアス様のコルセットをぎゅうぎゅう締める専属係がいなくなってしまうのです。