オリーヴィア様は薔薇が好き。


これは絶対に絶対に絶対に、秘密なお話。
実はオリーヴィア様は殿方、男性なのです。
エリアス・クライン。それがオリーヴィア様の本当のお名前です。
訳あって普段から女性の格好をなさっているのです。

エリアス様が誰をも騙す完璧な淑女、もとい女装をなさっている理由を語るには、まず我が国の王家の話からしなければなりません。

このノルトヴァルト王国の国王、フェリックス様と王妃ベアトリクス様の間には三人のお子様がいらっしゃいます。
皆、元気な姫君でとても喜ばしいことです。
しかし、次代の王となる男の子はおりません。
王妃様は男の子が生まれるようご懐妊なさる度にお祈りしておりましたが、三度全て願いは叶いませんでした。

そんな時です。
たまたま演劇を観に劇場へ赴かれた国王様が、主役を演じていたミーナ・クラインという美しい女優に一目惚れしてしまったのです。
国王様はミーナ様に熱烈な求愛をなさったらしく、ミーナ様は女優をやめて国王様の愛人となったのでした。
そしてミーナ様は国王様との間にお子様を生みました。それがエリアス様なのです。

さて、王家としては望んでいた男の子。
ですがミーナ様は愛人です。愛人の子は王族として認められません。
ですからエリアス様は殿方ですが、次代の王となる資格をお持ちではないのです。


しかし!いくら愛人の子とはいえ、王家の血をひく男の子が生まれたとなれば、王妃様は獲物を狙う狩人となります。

もとよりミーナ様の存在を快く思っていない、嫉妬の深い王妃様です。
ミーナ様は何度も命を狙われたことがあるらしく、このままではエリアス様まで危ない目に合うだろうと危惧なされました。

なので男の子ではなく女の子が生まれたことにして、なるべくエリアス様に危害が及ばないようになさったのです。
女の子と偽っておけば、王妃様の嫉妬も少しは和らぐでしょう。
予想通り、今日まで何事もなくエリアス様はピンピンしていらっしゃいます。
ええ、それはもう。とても元気で困ってしまいます。

お淑やかに!と何度注意しても剣の練習をするわ木に登るわ廊下を走るわ……コホン。


そんな全力で男の子なエリアス様に淑女レッスンの指導を国王様から依頼されたのが私のお母様でした。

国王様はエリアス様が男の子だとご存知です。
その重要な秘密を信頼のおける伯爵家、つまり私の家族に話してくださいました。

国王様は私のお父様となぜか仲良しなのです。
これは余談ですが、ミーナ様に一目惚れした演劇も一緒に観に行ったとか。




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