家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
「そうなんだ。それでなぜか慰謝料まで請求されてな……」

父は深いため息をついた。

「なぜかって、愛人を囲っていたからでしょ。」

私は呆れを隠せずに言った。父の顔がピクリと動く。

「……なんで知ってる。」

「お母様から聞いたのよ。」

その瞬間、父の顔は面目をつぶしたように歪んだ。かつての威厳は影も形もない。

「……はっきり言って、金などない。そこでな……屋敷を売ろうと思うんだ。」

「エルバリー家の屋敷を⁉」

私は思わず声を上げていた。

実家の屋敷――代々続いてきたエルバリー家の象徴。

その重厚な門、立派な庭園、母が愛した温室……私にとっては、思い出が詰まった大切な場所だった。

「そんな……」

実家がなくなる。そう思った瞬間、胸がぎゅっと締めつけられるような感覚に襲われた。

あんなにも華やかだった家が、父の失態で――壊れていくなんて。
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