家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
「これも、貴族の夫人として心得ておくものだけど……」

母は、目元をぬぐいながらも、どこか覚悟を決めたような声で続けた。

「夫に愛人ができた時には、そっとしておきなさい。問い詰めず、責めず、見ないふりをするの。男は気まぐれだけど、いつかあなたの元に戻ってくるから。」

その言葉は、まるで過去の記憶をなぞるようだった。

私は一瞬、母自身もそんな経験をしたのではと感じた。

――もしかしたら、父にも愛人がいたことがあったのかもしれない。

それでも母は、この家を守り、私たちを育ててきた。

「……はい。」私は小さく返事をした。

本当は胸の奥がちくりと痛んだけれど、母のように強くありたいと思った。

「つらくなったら、いつでも帰ってらっしゃい。」

そう言って母は私をもう一度抱きしめてくれた。

その温もりが、何よりの祝福のように感じられた。
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