家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
私は馬車に乗り込んだ。扉が閉まり、ゆっくりと動き出すまでの短い間に、母が声をかけてきた。

「子供が生まれたら、顔を見せに来なさい。」

「はい。分かりました。」

母の目には、再び涙が浮かんでいた。

きっといろいろな思いがあるのだろう。

「結婚式には行くから。」

「……はい、お母様。」

小さくうなずきながら、私は目線を横に移した。

そこには妹のルシアがいた。

だが、彼女は私と目を合わせようとせず、そっぽを向いたままだった。

「ルシア。」私は少し声を強めて呼びかけた。

「なに?」

不機嫌そうな顔で、ようやく振り向いた妹に、私は優しく言った。

「結婚が決まったら、教えて。」

ルシアは少しの沈黙のあと、ふいっと目をそらしながら、ぽつりと答えた。

「分かったわ。」

その声には、どこか拗ねたような響きがあった。

そして、馬車は静かに動き始めた。

私は揺れる馬車の中で、家族との最後の時間を胸に刻みながら、ゆっくりと瞼を閉じた。
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