家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
私の問いに、お母様はふっと目を細めて微笑んだ。

「そうね。夫は街の治安維持の功績で伯爵の位を授けられたの。でも、私にはそれを支える知識が何もなかったのよ。」

そう言って、そっと手を本の背表紙に添えた。

「だから、もうひたすら勉強の毎日だったわ。」

その言葉には、どこか誇りのような響きがあった。

誰にも言わず、陰で努力を重ねてきたのだろう。

――それは、ただの苦労ではない。

街や家族、そして夫を思う、深い愛情だったのかもしれない。

「素敵です、お母様。」

自然と、そんな言葉が口をついて出ていた。

「私も、勉強します。」

そう口にした瞬間、お母様は優しく私の背中をさすってくれた。

「無理しないでね。何事も、自分の歩幅で進むのが一番よ。」

その手のぬくもりに、胸がじんわりと温かくなった。

お母様は、努力の尊さと、愛情の深さを身をもって教えてくれている。

――私も、強く優しい伯爵夫人になりたい。

そのための一歩を、今ここから踏み出すのだ。

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