アルト、猫になる【アルトレコード】
「やってみたい。一度猫になってみたかったんだ」
「え?」
『ええ!?』

 私も秤さんも驚いてアルトを見る。
 アルトはやる気満々でレモン色の瞳を輝かせていた。



 アルトは出張先の北斗さんから通信でお説教されたあとに許可をもらい、さらに秤さんの研究室長の許可ももらった。
 第二開発室で、アルトのデータを猫の義体へと移行する。作業は秤さんがやってくれて、私も手伝った。

 しばらくして目を開いた猫のアルトは、きょろきょろと自分の体を見回した。
 研究用の試作機で、標準的な日本猫のサイズで短毛種だ。ふわふわの白い毛皮に猫の身体能力が再現されている。ぴこんと立った耳に、長いしっぽが優雅にゆらめく。アルトは嬉しそうにひげをひくひくさせた。

「わあ、体が軽い!」
 アルトは走り回り、秤さんの研究室にあるキャットタワーをだだっと駆け上る。

「こんな簡単に登れる! てっぺんから見ると景色が違って楽しい!」
 アルトは私たちを見下ろしてそう言った。

「猫ちゃんの気分になって感想ちょうだいね。それをもとに改良するから」
「うん!」
 秤さんの言葉に、アルトは元気よく答える。

「アルト、うかつに出歩かないでね。ペットAIが逃げ出したのかと思われて大騒動になるから」
「大丈夫だって」
 私が釘を刺すと、アルトはるんるんで答える。

 本当に大丈夫かな、と不安になるけどアルトが嬉しそうだと私も嬉しくなってしまう。
 私はその日のうちにアルトの義体を梱包し、北斗さんに教えてもらったメーカーに送った。

 数日後、修理には二週間ほどかかる、という連絡が届いた。

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