アルト、猫になる【アルトレコード】
 猫になったアルトは当然、大人しくしてはくれなかった。
 予想していた北斗さんが各所に通達しておいてくれたため、ペットAIの脱走騒ぎが起こることはなかった。さすが北斗さん、行動パターンを把握している。

「また散歩に行って来るね」
「行ってらっしゃい、気を付けて。何度も言うけど、その義体は借り物なんだから」
「わかってるって」
 アルトは尻尾をピンと立てて、楽しそうに研究室を出て行く。

 あちこちでかわいがられ、アルトはいつもご満悦だ。
 お昼は私と一緒に食べることになっているので、アルトはいったん戻って来た。

「今日もたくさん撫でてもらえたよ」
 嬉しそうなアルトに、つい幼年期と少年期を思い出す。撫でてあげると嬉しそうで、反抗期でも照れながら撫でられていた。撫でるのをやめると怒られたりして、なんだか懐かしくなる。

「アルトは触れ合いが好きだね」
「うん。人間って……怖い人もいたけど、みんないい人だもん」
 アルトは嬉しげにそう言って私に体をこすりつける。

「アルト、本当の猫みたいね」
「猫のデータを秤さんに見せてもらって、猫っぽくしてるの」
 いたずらな声音に、アルトらしいな、と私は苦笑をもらす。

 ピコン、と音がなってメールを見ると、アルトの義体の修理を依頼したメーカーからだった。
 壊れた部品が複雑で3Dプリンタでは再現できないらしく、海外からの取り寄せになって時間がかかるらしい。

 どうしよう。アルトが聞いたらショックを受けるんじゃ……。
 私が困っていると、アルトが、とん、と机の上にのった。
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