アルト、猫になる【アルトレコード】
 女性はしゃがみこんで、べろべろに甘い顔になってアルトを撫でまわした。
「いやー、ほんとにかわいい。うちの子にしたい」
「だーめ。ぼくは先生の子だから」

 すぐさま否定するアルトに、なんだか嬉しくなる。どうしたって、アルトの一番は自分でありたいなんて思っちゃう。

「そっかー。残念」
「お、ペットAIかと思ったらアルトか」
 通りすがりに男性研究員が足を止めた。

「なんか、義体を壊したんだって?」
 その人はにやにやしながらアルトを見下ろす。
 なんか嫌な感じだ。

 この研究所は大きいから、いろんな人がいる。AI開発の人ばかりじゃなく、医療用機器や宇宙機器の開発の人もいる。とはいえ、基本的にはみんなAIには好意的なんだけど……。

「義体は修理中で、今は猫の義体を借りてるんだよ」
 アルトは明るく答えた。
「へえ。義体が直らなくて一生猫のままだったりしてな」

 男の言葉に、アルトが固まった。
 私は驚いてとっさに言葉が出ない。
「は?」
 女性研究員が不快気に眉を寄せる。

「なに怒ってんだよ、冗談だろ」
 男性は慌てて否定する。
「冗談でもやめてください」
 私が続けると、男はばつが悪そうに目をそらした。
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