アルト、猫になる【アルトレコード】
「悪かったよ」
 言い捨て、男は逃げるように立ち去った。
「嫌なこと言われたね。気にしなくていいよ」
 女性研究員はアルトの頭を撫でる。

「ありがと……」
 答えるアルトの声は、どことなく元気がなかった。



 私はその後、アルトを抱きかかえて研究室に戻った。
 アルトはすっかり元気をなくして研究室のクッションの上で丸まっていたが、仕事を終える頃に起き出して私の膝の上に乗った。

「……ねえ先生」
「なあに?」
 抱きかかえると、アルトはごろごろと喉を鳴らした。かわいくなって、私はそのまま頭を撫でて喉を撫でる。

 アルトは気持ちよさそうに首を伸ばしてされるがままになっていた。
「ぼく、このまま猫になっちゃうのかな」
「え!?」

 私は思わず手を止めた。
 アルトは首を戻してじっと私を見上げる。

「喉を鳴らそうなんて思ってないのに嬉しいと自然と喉が鳴っちゃうし、喉を撫でられたら気持ちよくなっちゃうし、ぼくって本当に猫になってる気がする」
「それは、義体がそう反応するように作られてるからだよ」

 慰めるが、アルトはしょげたままだ。ひげもしっぽもタランと垂れて元気がない。
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