【不器用な君はヤンキーでした】
第9話 交差する気配と、触れない優しさ(前編)
(“あの女”って、誰なの?)
ベッドに仰向けになったまま、私はスマホの画面を見つめていた。
匿名の送り主。
名前も名乗らず、ただ一方的に送られてくる――不穏な言葉たち。
(……見せかけの優しさに騙されないで)
(……今度は、あんたの番)
なんの根拠もないはずなのに、胸の奥に染みついて離れない。
昨日あれだけ瀬那のことを信じたはずなのに。
抱きしめられたときのぬくもりが、確かに心に残ってるのに。
それでも、こんな言葉に、心をざわつかせてしまうのは――
(“あの女”って誰?)
送り主は名前を出してこない。
でも、私の中で、ひとりだけ――顔が浮かんだ。
それは、数日前。
放課後、校舎の裏、フェンスの前で偶然出会った“女の子”。
制服は、私たちの学校のものじゃなかった。
だから、同じ学校の生徒ではない。
だけどそのときの彼女の視線と、瀬那の反応が、今もずっと頭に残ってる。
彼女は――凛音って名前だった。
「……昔ちょっとね」
あのとき彼女が言った、たったひと言。
そして、私が勇気を出して聞いた「元カノ?」という問いに、瀬那は「まあな」とだけ答えて――
「でも今は関係ない」と、私を見つめて言った。
(……関係ないって、ほんとに?)
胸の奥に、小さなざらつきが残る。
あのときの凛音の目は、どこか“試すような”“値踏みするような”光を帯びていた気がした。
でも、それ以上は何も知らない。
彼女がどんな人なのかも、今どこにいるのかも、瀬那とどんな終わり方をしたのかも。
――全部、分からないまま。
(だけど、“あの女”って言葉が、なぜか凛音を連想させる)
証拠なんて、何もない。
ただの勘。直感。……でも、心が拒絶できなかった。
“私が知らない瀬那”を、彼女はきっと知ってる。
(……だからって、疑いたくなんかないのに)
私は目を閉じた。
瀬那を信じると決めたばかりなのに。
ほんの一通のメッセージで、ぐらついてしまう自分が、情けなくて仕方なかった。
* * *
次の日、月曜。
制服の襟を直しながら家を出た。
空は曇り気味で、朝の風がやけに肌寒い。
(今日も、普通に過ごせるよね……)
そう思いながら学校に向かう道すがら――
ふと、背後から視線を感じた。
(……え?)
振り返る。
でも、そこには誰もいなかった。
(気のせい……だよね)
けど、昨日も一昨日も、こんな風に“誰かに見られてる気配”があった気がする。
瀬那と別れたあの夜も。
フェンスの前で凛音とすれ違ったときも。
(まさか……)
(『今度は、あんたの番』)
不安が、じわじわと背中を這いのぼってくる。
何かが始まっている。
もう、普通の毎日には戻れない――そんな予感。
* * *
放課後。
私は、倉庫の裏手にある人気のない場所で、瀬那を待っていた。
少し遅れて現れた彼は、相変わらず無愛想なのに、どこか優しい顔で私を見た。
「待った?」
「……ううん。今来たとこ」
「寒くね?」
「ちょっとだけ。でも……平気」
そう言って、瀬那が私の肩に自分のジャケットをかけてくれる。
(……優しい)
何も言わず、ただ隣にいるその距離感が、今はたまらなく愛しくて。
でも――
(その優しさが、少しだけ怖くなるときがある)
(まるで、全部を隠そうとしてるみたいに)
私が口を開こうとした、そのときだった。
「なぁ、叶愛」
「……ん?」
「凛音のこと。ちゃんと話す」
瀬那の低い声が、風に消えないように私の耳に届いた。
「……え?」
ベッドに仰向けになったまま、私はスマホの画面を見つめていた。
匿名の送り主。
名前も名乗らず、ただ一方的に送られてくる――不穏な言葉たち。
(……見せかけの優しさに騙されないで)
(……今度は、あんたの番)
なんの根拠もないはずなのに、胸の奥に染みついて離れない。
昨日あれだけ瀬那のことを信じたはずなのに。
抱きしめられたときのぬくもりが、確かに心に残ってるのに。
それでも、こんな言葉に、心をざわつかせてしまうのは――
(“あの女”って誰?)
送り主は名前を出してこない。
でも、私の中で、ひとりだけ――顔が浮かんだ。
それは、数日前。
放課後、校舎の裏、フェンスの前で偶然出会った“女の子”。
制服は、私たちの学校のものじゃなかった。
だから、同じ学校の生徒ではない。
だけどそのときの彼女の視線と、瀬那の反応が、今もずっと頭に残ってる。
彼女は――凛音って名前だった。
「……昔ちょっとね」
あのとき彼女が言った、たったひと言。
そして、私が勇気を出して聞いた「元カノ?」という問いに、瀬那は「まあな」とだけ答えて――
「でも今は関係ない」と、私を見つめて言った。
(……関係ないって、ほんとに?)
胸の奥に、小さなざらつきが残る。
あのときの凛音の目は、どこか“試すような”“値踏みするような”光を帯びていた気がした。
でも、それ以上は何も知らない。
彼女がどんな人なのかも、今どこにいるのかも、瀬那とどんな終わり方をしたのかも。
――全部、分からないまま。
(だけど、“あの女”って言葉が、なぜか凛音を連想させる)
証拠なんて、何もない。
ただの勘。直感。……でも、心が拒絶できなかった。
“私が知らない瀬那”を、彼女はきっと知ってる。
(……だからって、疑いたくなんかないのに)
私は目を閉じた。
瀬那を信じると決めたばかりなのに。
ほんの一通のメッセージで、ぐらついてしまう自分が、情けなくて仕方なかった。
* * *
次の日、月曜。
制服の襟を直しながら家を出た。
空は曇り気味で、朝の風がやけに肌寒い。
(今日も、普通に過ごせるよね……)
そう思いながら学校に向かう道すがら――
ふと、背後から視線を感じた。
(……え?)
振り返る。
でも、そこには誰もいなかった。
(気のせい……だよね)
けど、昨日も一昨日も、こんな風に“誰かに見られてる気配”があった気がする。
瀬那と別れたあの夜も。
フェンスの前で凛音とすれ違ったときも。
(まさか……)
(『今度は、あんたの番』)
不安が、じわじわと背中を這いのぼってくる。
何かが始まっている。
もう、普通の毎日には戻れない――そんな予感。
* * *
放課後。
私は、倉庫の裏手にある人気のない場所で、瀬那を待っていた。
少し遅れて現れた彼は、相変わらず無愛想なのに、どこか優しい顔で私を見た。
「待った?」
「……ううん。今来たとこ」
「寒くね?」
「ちょっとだけ。でも……平気」
そう言って、瀬那が私の肩に自分のジャケットをかけてくれる。
(……優しい)
何も言わず、ただ隣にいるその距離感が、今はたまらなく愛しくて。
でも――
(その優しさが、少しだけ怖くなるときがある)
(まるで、全部を隠そうとしてるみたいに)
私が口を開こうとした、そのときだった。
「なぁ、叶愛」
「……ん?」
「凛音のこと。ちゃんと話す」
瀬那の低い声が、風に消えないように私の耳に届いた。
「……え?」