【不器用な君はヤンキーでした】

14話前編 泣き顔の理由、守りたい想い

泣き顔の理由、守りたい想い

 

土曜日の朝。
スマホの画面に届いた、短いメッセージ。

 

【行ってくる】

 

絵文字も何もない、瀬那からのLINE。
それだけで、彼の覚悟が伝わってきた。

(瀬那……大丈夫かな)

私はベッドの上でその画面を見つめながら、心の中でそっと祈った。

 

──瀬那が、家に帰るって言った。

「逃げないで向き合ってくる」
そう言った彼の顔は、少しだけ震えてた。

でも、それ以上に強くて――
だから私は、「行ってきて」って背中を押した。

 

きっと、簡単なことじゃない。
言葉じゃ片づけられない傷が、きっとたくさんある。

それでも、彼が自分で決めたことなら。
私は、信じたい。

 

朝ごはんを食べても、どこか落ち着かなくて。
リビングのテレビの音も、弟の声も、今日はなんだか遠く感じた。

 

「叶愛、どうしたの? 食欲ないの?」

「ううん……ちょっと、考えごと」

「もしかして、昨日の彼くんのこと?」

 

不意に母がそう言ってきて、ドキッとした。

「え、な、なんで……?」

「わかるわよ。あなた、ああ見えて結構顔に出るもの」

 

「……そっか」

私は、ちょっとだけ笑った。

母の前で、恋愛のことを話すなんて、普段なら絶対にしないけど――
なんとなく、この時は少しだけ話したくなった。

 

「……あのね、瀬那っていうの。わたしの……好きな人」

「うん、聞いてるわ。昨日会ったから」

「うん……あのね。あの人、すごく優しくて、でもちょっと不器用で……たくさん、抱えてるものがあるの」

 

母は黙って私の言葉を聞いていた。

「今日、家に帰るって言ってた。……自分の過去と、ちゃんと向き合うって」

 

「えらいわね」

「うん。でも、すごく怖いことだと思う。わたしなんかには、想像もつかないようなことを……あの人は、抱えてるから」

 

母は少しだけ微笑んで、私の頭を優しく撫でた。

「叶愛が、そばにいてあげなさい。きっと、その子にとって、あなたの存在はすごく大きいはずよ」

 

その言葉に、少しだけ涙が滲みそうになった。

「……ありがとう、ママ」

「ふふ。久しぶりにそう呼ばれたわ」

 

私は、少しだけ笑った。

家族って、あたたかい。
その当たり前が、どれだけ幸せなことなのか――
瀬那に出会ってから、ようやく気づいた気がする。

 

* * *

 

お昼を過ぎても、瀬那からの連絡はなかった。
私はずっとスマホをそばに置いたまま、何度も画面を確認してた。

(無事に……終わったかな)

心臓の音が、少しずつ速くなる。

 

そして――日が傾き始めた夕方。

「ピコン」

通知音が鳴って、画面を見た瞬間、息が止まる。

 

【……会える?】

 

それだけのメッセージ。

でも、その文字の向こうに、瀬那の声が聞こえた気がした。

 

私はすぐに「うん」と返事して、制服に着替えて家を飛び出した。

向かうのは、瀬那と約束した“あの場所”。

校舎裏。
初めて彼とぶつかって、繋がって、すれ違って、
でも何度も立ち返ってきた、大切な場所。

 

そして、私はそこで――
瀬那の“いま”と、向き合うことになる。
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