【不器用な君はヤンキーでした】

泣き顔の理由、守りたい想い

夕方、空は少し赤く染まっていた。

いつもの校舎裏に向かうと、そこには瀬那がいた。
制服のまま、壁に背中を預けて、うつむいてる。

 

「……瀬那」

 

声をかけた瞬間、彼が顔を上げた。

その目は、少し赤くて、どこか泣き腫らしたように見えた。

 

「……来てくれて、ありがとな」

「当たり前でしょ」

 

静かに近づいて、彼の目の前に立つ。
その距離が、いつもよりもずっと重たく感じた。

 

「……行ってきたの。家に」

 

「うん」

 

瀬那は少しだけ笑った。
でも、それは安心の笑みじゃなくて、何かを堪えるような――
壊れそうな微笑みだった。

 

「親父に、会った。……三年ぶりくらい、かな」

 

「そっか……」

 

「“今さら何の用だ”って、いきなり怒鳴られたよ。俺、玄関くぐっただけなのにさ」

 

「……うん」

 

「それでも俺、ちゃんと言った。“会いに来た”って。“話がしたい”って……震えながら、必死で」

 

瀬那の手が、ギュッと拳を握ってるのが見えた。

 

「なのにさ、親父……笑ったんだよ。“今さら被害者ヅラか?”って……。俺、なにも言えなくなって」

 

私は、思わず彼の手に触れた。
それだけで、何かを分け合えた気がして。

 

「……ねえ、瀬那。泣いたの?」

 

少しの沈黙。

そして彼は、ゆっくりと目を閉じた。

 

「泣いたよ。……みっともなく」

 

「……ううん。みっともなくなんかないよ」

 

私はそっと、彼の胸元に顔をうずめた。

温かくて、少しだけ震えてる彼の身体。
その全部を、受け止めたかった。

 

「俺、ずっと思ってた。自分なんか……愛されちゃいけないって。愛される資格なんてないって」

 

「違う。瀬那は、ちゃんと愛されていい人だよ」

 

「……叶愛」

 

彼が私の名前を呼んだ声が、あまりにも弱くて、でもすごく必死で――
その声が、心の奥を強く叩いた。

 

「俺さ、叶愛に触れるたびに怖かったんだ。優しくされるたび、幸せになるたび、“どうせ壊れる”って……心のどこかで、ずっと思ってた」

 

「……壊れないよ」

 

「本当に?」

 

「わたしが、壊させない。……絶対に」

 

その瞬間、瀬那の腕がぎゅっと私の身体を引き寄せた。

苦しいくらい、強く。

でもその強さが、彼の全部だった。

 

「ごめん……ごめん、叶愛。俺、もっとちゃんと強くなりたい」

 

「強くなれるよ。瀬那なら、絶対に」

 

彼の心に触れた気がした。
ずっと一人で戦って、泣くことすら許されなかった彼の過去。

それでも今、こうして泣けるようになったこと。
私の前で、素直に弱さを見せてくれたこと。

その全部が、誇らしくて、愛おしかった。

 

私はそっと彼の頬に触れて、泣き顔を拭う。

「大丈夫。……一緒に、強くなろう」

 

「……ああ」

 

その夜、瀬那からのLINE。

【俺、変わりたい。今度こそ、ちゃんと大事にしたい】

 

私はスマホの画面を見つめながら、微笑んだ。

(大丈夫。私も、変わるよ。……瀬那の隣で)

 

傷ついて、泣いて、でも今、ちゃんと前を向ける。
そんな彼を、私はもっと好きになった。

 

たとえ過去が彼を縛っていても、
私は未来で、彼を抱きしめる。
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