【不器用な君はヤンキーでした】

15話「壊れかけた心に、触れる手」

それから数日が経った。

瀬那は少しだけ、雰囲気が変わった気がした。

笑うときも、話すときも――少しだけ「迷い」が減ったように見えた。

 

「なあ、叶愛」

「ん?」

「……次の週末さ、どっか行かね?」

 

唐突な誘いに、少しだけ驚いた。

でも、その声はどこか照れてて。

 

「どこに?」

「別に、遠くなくていい。……ふたりで、ちょっとゆっくりできるとこ」

「……いいよ」

 

その返事に、瀬那はほっとしたように目を細めた。

「ありがと」

 

その言葉の中には、きっといろんな意味があった。

勇気を出して過去と向き合ったこと。

私のそばで泣いたこと。

そして今、こうして「未来」の話をしてること。

全部を、ひとつにして「ありがとう」って、言ってくれたんだと思った。

 

* * *

 

その夜、ベッドの中。

スマホを見つめながら、ふと浮かんできたのは――凛音さんの顔だった。

 

(あの人なら、今の瀬那を見て、なんて言うんだろう)

優しすぎて、苦しんできた人。

そして、きっといまも「彼の幸せ」を願ってくれている人。

 

画面を開くと、まだ最後に届いたLINEが残っていた。

【お願い。あの人のそばにいて。あの人、自分を大事にするのが下手だから】

 

(大丈夫。……ちゃんと、守ってる)

私は心の中で、そう答えた。

 

そしてその夜、瀬那からもう一通のメッセージが届いた。

【叶愛。今度ちゃんと話したいことがある。……お前のことも、俺のことも】

 

それは、ただの「おでかけ」の話じゃないんだと、すぐに気づいた。

 

(話すって、……何を?)

 

少しだけ、不安になった。

でも同時に、ちゃんと向き合おうとしてくれてるその気持ちが、嬉しかった。

 

(大丈夫。私も、ちゃんと受け止めるから)

画面を閉じて、ゆっくり目を閉じた。

 

 

──そのときはまだ、知らなかった。

瀬那が「話したいこと」の中に、“あの名前”が出てくるなんて。

私の知らない、もうひとつの記憶。

ずっと彼の中に沈んでいた、壊れそうな名前。

 

それが、あの週末に――すべて、明かされる。
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