扇情的ナミダ
前にも留惟の泣き顔を、俺は見たことがあるって言うのか?
「覚えてないよ、きっと。あなたは誰にでも優しいから。私はその他大勢に埋もれて、記憶にも残らない。」
涙を拭って、笑顔を変わらず俺に向ける。
「いつ?それは、どこで?」
思い出すことも出来ず、不安に似た感情に自分が振り回されるようだ。
「何度かあったのよ。」
留惟は遠い目をして、俺を見ていないように思える。
悔しい。思い出せない自分が。
過去の俺は、一体何を……
泣き顔。何度か。
微かに記憶が掠った。
「確かに、記憶にあるような気がする。雨の日、あれは下校中か。」
顔や出来事までは思い出せないけれど、確かに俺は見た。
「ねぇ、留惟。君は俺のどこを好きになってくれたの?」