扇情的ナミダ
彼女は信じられないものを見ているような複雑な表情。
まただ。
俺の感情を冷ますような痛みと、空虚感。
言葉が出なかった。
罪悪感が生じるのに、彼女を逃がすことも出来ない自分。
「樋野くん、あなたが何を考えているのか分からない。」
ベッドに押し倒した俺に、彼女の目は逸れることなく向けられたまま。
「俺も理解不能だ。」
混乱しているのは俺の方なのか。
俺が見たかったのは泣き顔だったはずだ。
「そうだよね、私と付き合うなんて言うんだもの。」
彼女は覆い被さる俺の顔に手を伸ばし、そっと頬に触れる。
足りない。満足できない。
どうしたら埋まるんだ、この欲求は。
自分の感情ですら分からないのに、留惟の感情なんて読めるはずもない。