嫁いだ以上妻の役目は果たしますが、愛さなくて結構です!~なのに鉄壁外科医は溺愛を容赦しない~
 ──着物は想像以上に窮屈だった。
 帰宅して帯をほどいた瞬間の開放感は、ドレスのコルセットを脱いだ時と同じ。

(どの世界でも、美しさを保つのは大変なのね)

 夕刻、自室のベッドに倒れ込んだ美七はごろりと仰向けになり蛍光灯に左手を翳す。
 そうして、薬指を飾る婚約指輪を見つめながら昼間の出来事を振り返った。

 結納式は滞りなく終わった。

 紘生の両親は美七が嫁いでくることを楽しみにしているようで、結納式後の昼食会では体調を気遣いつつも、早くも孫の話まで出るほどの歓迎ムードだ。

 最初はそれほど自分を気に入ってくれているのかと思ったが、紘生の母の『本当、浮いた話がひとつもなかったから嬉しいわ。夫として至らないところもあると思うけど、どうかよろしくね』との言葉でそうではないと悟った。

(あれはおそらく、恋愛や結婚に向かない難ありの息子を受け入れてくれる私に感謝してるって感じね。でも、モテないわけではないだろうけど)

 人目を引く端整な顔立ちに、美七より頭ひとつ分は高い上背。
 高級なスーツを着こなすスタイルのよさ。

 紘生に好意を寄せる女性はたくさんいただろう。

 前世の記憶がなければ、美七もそのひとりだったかもしれない。

 学生時代にはすでに美七との婚約が決まっていたし、見方によっては、彼は硬派といえそうだ。

 ただ、本人が恋愛に興味がないせいで玉砕した女性は多そうだ。
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