嫁いだ以上妻の役目は果たしますが、愛さなくて結構です!~なのに鉄壁外科医は溺愛を容赦しない~
「な、何? どうかしました?」
「離婚したいなら、そこまでやる必要はないんじゃないか? なんなら俺に愛想を尽かされるように振る舞う方が、君には都合がよさそうだが」
「そんな幼稚なことはしません。この結婚で得られるものもあると思いますし、何より結婚している間は、妻の役割をしっかりと果たすつもりです」

 紘生がふっと吐息交じりに笑う。

「真面目だな。なら、俺も真面目に努力しようか」
「どんな?」
「美七に離婚したいと言われないための努力だ」

 言葉の通りに取れば一途な夫の懇願だが、彼が恋愛に興味がないと知っている美七はからかうように笑みを浮かべた。

「それは確かに効率的かも。紘生さんらしいです」
「お褒めに預かり光栄だ」

 皮肉だと分かってあえて乗ってくれる紘生と、冗談めかしつつ食事を楽しむ。

 実のところ、結納式から今日まで、紘生とは会話らしい会話をした覚えがない。
 医者として多忙な紘生とは顔を合わせる時間も少なく、会っても互いの口から出るのは、報連相がメインの事務的なものだけだった。

 だが、この夜はいつものとは少し違い、とりとめのない会話ができ、思いのほか楽しい時間を過ごせた。

「ごちそうさまでした」

 美七が両手を静かに合わせると、紘生が立ち上がり、空になった食器を重ねる。

「あっ、片づけなら私が」
「問題ない。片づけておく」

 そう言って美七の分も重ねて下げた。

 しかも洗い物までしてくれるようで、袖を捲っているではないか。
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