嫁いだ以上妻の役目は果たしますが、愛さなくて結構です!~なのに鉄壁外科医は溺愛を容赦しない~
「それは私がやります! 仕事で疲れてるんだしゆっくりしててください」

 長身な彼の隣に立って見上げると、いつも涼しげな双眸が美七をじっと見つめ返してきた。

「美七……」
「な、なんですか……?」

 その視線が、つ……と下りて、唇で止まる。

(どうして私の唇を見つめて……。ま、待って。まさか)

 彼が求めるものを予想した途端、心臓が壊れたかのように早鐘を打つ。

 紘生の指が下唇に触れて、頬がカッと熱を持った。

(これってやっぱりキス、される……?)

 今の今までロマンチックな空気などなかったのに、突然すぎではないか。

 いや、そんなことよりも、だ。

 夫婦ならば当然の行為だが、美七と紘生の間に愛はない。
 紘生も、気持ちより効率優先で結婚すると言明していた。

(なら、どうして? まさか胃袋を掴んで心まで掴んだなんてことは──)

「ソース、ついてるぞ」
「……え」

 ほうけている間に、紘生の親指がくいっと口の端まで拭う。
 そしてそのままシンクに向き直り、洗い物を始めた。
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