嫁いだ以上妻の役目は果たしますが、愛さなくて結構です!~なのに鉄壁外科医は溺愛を容赦しない~
「……それは困るな」

 恋愛に興味がない紘生にとって、美七は理想の結婚相手だ。
 自分の意思があまりなく、つまらない印象はあるが、紘生の考えに従順で、愛のない政略結婚も素直に受け入れた。

 人となりを知るための月一デートでは、話しかけるのはいつも紘生からで、あまり会話も弾まなかった。
 半年前から始まった結婚式の準備でも『お任せします』ばかりで、彼女の口から希望や主張が語られることは一度もなかった。
 美七の本音はわからずじまいだったが、紘生としては仕事に支障がなければ問題なく、そういう意味では順調だったといえる。

 しかし、結納式の日、事態は一変した。

 美七が結婚を拒んだのだ。

 事故による記憶喪失が理由だったが、彼女は人が変わったようだった。
 以前のような従順さはなく、強い意思のこもった眼差しで紘生を見つめ、はっきりと物を言う女性になっていた。

(まあ正直なところ、ぐだぐだ揉めるくらいなら破棄してもよかったんだが……)

 もしその後、別の女性との結婚を勧められた場合、その女性から愛情を求められても面倒だった。
 そして、過去の経験上、金目当てなのもうっとうしい。

 であれば、記憶が戻れば支障がなくなる美七との結婚が最良だという結論に至った。

 そして無事に結婚した今、性格の変わった美七をやはり悪くないと感じている。
 扱いづらい猫のようではあるが、妻の役目を果たそうと努力する美七は好ましい。

 以前の美七の方が紘生にとって都合がいいはずだが、今の方が張り合いがあった。
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