アルト、ハロウィンデビューする【アルトレコード】
「ねえ先生」
 本を読んでいたはずのアルトに声をかけられ、私はパソコンから顔を上げた。
 モニター越しの黒銀の瞳は好奇心にきらきらと輝いている。白い肌が黒い服に映えて、ストレートの銀髪も、なにもかも今日もかわいい。

 私が勤めるのは『ミライ創造研究所』で、宇宙開発から医療機器やナノマシン、AIペットの開発もしている。

 転職の前には、まさかアルトの……ニュータイプAIの育成を手伝うなんて思いもしなかった。

 幼かったアルトはいまや本が大好きな知的な少年へと成長していた。
 今日も研究室でアルトは勉強、私は仕事をしていたところ、アルトに声をかけられたのだ。

「先生、ハロウィンって知ってる?」
「知ってるよ。仮装して楽しむんだよね」
 もう十月。季節はすっかり秋で、研究所内でもハロウィンや仮装の話をしている人をちらほらと見かける。

「そう! もともとは古代ケルト人のサウィン祭が起源とされてて……」
 アルトは本で読んだ説明をぺらぺらとまくしたて、私はほほえましくそれを聞いた。

 彼は知識欲が強くてたくさん本を読んで覚えていく。AIだから一度読んだ内容は忘れないところがうらやましい。

「でね、今度の日曜日にハロウィンイベントで仮装大会があるんだって。行きたいな~」
「参加するの? 仮装して?」
 私は驚いて聞き返す。

「地方の人とか病弱な人とかのためにホログラム参加部門があるんだって。それなら僕も出られると思う。小型の携帯用のホログラム投影機ってあるんでしょ?」
 確かにそれなら参加できそうだ。

 だけど、北斗さんが許すだろうか。そもそもアルトは違法な存在で、機密だ。外に出るだけでも緊張するのに、そんな目立つ大会に参加だなんて。
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