アルト、ハロウィンデビューする【アルトレコード】
「こんなことって」
 私は目が潤んでしまって、視界がぼやけた。
 泣いている姿をアルトに見られたくなくて、端末をぎゅっと胸に押し付ける。

「先生!? どうしたの?」
「なんでもない、大丈夫」
 アルトを安心させたいのに、声が震えてしまう。

 見知らぬ他人同士なのに。
 今、事情を聴いたばかりなのに。

 なのに、こうして優しさをくれる人がいる。

「みなさん、落ち着いてください。ちょっと待ってくださいね!」
 司会の人がマイクなしで叫び、男性からマイクを返してもらう。

 そのまま男性とともにステージの下に降りて来て、係員と話をする。
「ちょ、これどうするよ」
「どうって……」
 ふたりは困惑して判断に迷っているようだ。

「……みんな盛り上がっちゃってますからね。これでダメだって言ったらネットで炎上しますよ」
 男性が冷静に脅すように言い、私は目を白黒させた。
 バッテリーがない、としょんぼりしていた人と同一人物には思えない。

「仕方ないな」
 司会はマイクを持って壇上に戻る。

「みなさま、ご厚意ありがとうございます。全員からお借りするわけには参りませんので、おひとり、お願いできますでしょうか」
「じゃあ俺、バッテリー満タンだから」
 ひとりが立ち上がり、ステージまで歩いて来てバッテリーを司会に渡す。
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