放課後、先生との秘密

33話 離れようとしても

次の日

朝の光がカーテンの隙間から差し込む。
少し眠そうに目をこすりながらベッドから起き上がるとこーすけが目の前にいた


「おはよ朝だぞ!!」

「朝からうるさいなぁ」

「今日は学校いくよな?」

「さすがに行くよ」

「𝑆𝐴𝑆𝑈𝐺𝐴𝑁𝐼?」

「𝑆𝐴𝑆𝑈𝐺𝐴𝑁𝐼」

「𝑆𝐴𝑆𝑈𝐺𝐴𝑁𝐼!!」

「んふふふもういいって」



朝から無理やり元気出されたわ

こーすけはリビングに向かっていった
何を聞かないでくれるこーすけの優しさに胸を打たれる


着替えてからリビングで朝食を食べていると


「そういえばヒラ風邪ひいて熱出てんだって」
「休むらしいぞ」

「ふーん」


あたしは聞き流すように返した
あいつの事だしすぐ治るっしょ


あたしはパンをかじりながらスマホをチラっと見た。

ヒラからは特に連絡なし。
普段なら「遅刻すんなよ」とか余計な一言送ってくるのに。

……ほんとに具合悪いんだ。


「お前、ちょっと心配してやれよ」


こーすけがオレンジジュースを飲みながら横目で言ってきた。


「なんであたしが?放っときゃ治るって」


そう言いつつも、胸の奥がざわつく。
気まずいのもあって素直に心配できない。

「ま、いいけどさ」

こーすけはあっさり引いて、テレビをつけた。
朝のニュースキャスターがやけに明るい声で「今日も暑くなります」とか言ってる。

熱くなるんだったらなんとか冷たくしてくれ。


「そろそろ食べ終わらないと遅刻すんぞ〜」

「ん〜」


正直学校なんか行きたくない
先生に会いたいけど会いたくない
ヒラのこととかそんな場合じゃなくて




靴ひもを結んでいると、こーすけが後ろからのぞきこんできた。


「行きたくねぇの?」

「別に」

「……葵」

名前を呼ばれて、手が止まる。
いつになく真面目な声。


「お前が元気ないと、俺まで気になるんだけど」


視線を合わせないまま、ふっと笑ってごまかした。
するとこーすけがあたしの頭をなでた
それがいつもより嬉しくって



「んふふこーすけぇ」


思わず笑顔になった


「かわいいなぁぎゅーするか?」

「しねぇよロリコン」

「ぐはっ……!傷ついたぞ!!」

「うっさい」

「俺、頭なでただけやん?それをロリコン扱いとか……世知辛い世の中だぜ」


バカみたいに芝居がかった動きに思わず吹き出す。
……ほんと、こいつのテンションについていけない。

「はい笑った〜!元気チャージ完了!」


こーすけが勝手にまとめて、玄関のドアを開ける。

外に出ると、ツクツクボウシの鳴き声と暑さが一気に押し寄せてきた。
あたしは肩にかけた鞄をぎゅっと握る。



並んで歩きながらも、心臓の奥のざわざわは消えない。



ついに学校に着いてしまった

昇降口で靴を履き替えて、教室に向かう廊下を歩く。
隣ではこーすけが相変わらずどうでもいい話をしている。

そうすると誰かにぶつかってしまった


「あ、すいませっ⋯⋯」



顔を上げた瞬間、目に飛び込んできたのは
会いたかった先生だった。

え、ええ……うそ。
よりによって今ここで?
頭が真っ白になる。


「葵おはよ〜前見て歩けよ!!」


先生はいつも通りのトーンで、でも少しだけ柔らかく笑った。
だけどその目は愛おしそうにあたしを見つめる。
なんでそんな顔するの?彼女は?


「……っ//」


昨日の夢のことも思い出して
胸がぎゅっと締めつけられて、何も言えなくなる。

いやでも好きだーー!!!!
今日もかっこよすぎて直視できない!!!
その髪型似合いすぎだってほんとに!!!


でも避けるって決めたんだ⋯

思わず逃げるように、あたしは教室へと駆け込んだ。

後ろで先生とこーすけがあたしの名前を呼ぶのを無視して。


心臓がドキドキしてる。
顔も耳も熱い。

自分でもわかるくらい挙動不審で
ああもう、ほんと何やってんだよ、あたし


ドキドキしたまま席に着くとナチが話しかけてきた、


「よー!葵昨日ヒラと海行ってたんだって?こーすけから聞いたけど」

「息抜きにな」

「あーしも連れてけよ!!ずりぃ〜」

「また今度な」

玲斗「え、そうなん?!ヒラと海行ってたん?」


うわダルっ
ナチと話していたら食い気味に
玲斗くんが話しかけてきた
面倒くさ


「ほんまヒラと仲良いなぁ」

「幼馴染だからね」

「羨ましい⋯⋯」



それ以上話すことはなかった
そこまで仲良くないのに気まずい


今日は先生の授業は無い日だっけ⋯
あっても嫌だけど無くても嫌
はぁ眠たいし寝るか

あたしは机に突っ放した

目が覚めると夕方になっていた
辺りを見渡してもナチしかいなかった

「んんっえ、待って今何限!?」

「おはよもう4時だよ、いつまで寝てんの」


ナチが目の前で不思議そうに見つめていた


「いや起こしてよ!!」

「いくら揺さぶってもビクともしなかったぞ」

「やらかしたぁぁぁ」

「昼ごはんも食べずに朝から寝てるやつ初めて見たわ」


たしかに最近疲れが溜まってた気がする
夢を見ないくらい熟睡してんもん


「とりあえず今からバイトだから帰るな」


そうナチが颯爽に帰っていく


「え、ちょっと待って帰るから待って!」

「今日も図書委員行かんのね、さすがにか⋯」

「会いたく⋯⋯ないもん」

「んふ会いたいくせにね」

「んな事ねぇよ」

「あ!!あそこにキヨちん!!」


思わず瞬時に指がさしたほうに目をやってしまう
でもそこには先生は居なくて


「はいあおちん騙された〜」

「うっざ」

「あーし思うんだけどさ、先生に彼女がいたとして、そんなの奪っちゃえよ」


「んな迷惑かけれねぇよ」

「好きにさせたのは向こうなのにムカつくな」


"好きにさせたくせに"か。
綺麗事ならそう言えるけど現実はそんな言葉でまとめれない。重くて痛い





ナチと一緒に校門を出ると、ちょうど西の空が赤く燃えるように染まっていた。

「じゃ、あたし行くから」
「ん、頑張って」

軽く手を振って、ナチと別れる。
一人になると、急に空気がひんやりして感じるのは気のせいだろうか。
誰もいない帰り道を歩きながら、ポケットからスマホを取り出した。

その瞬間、画面が震える。
ヒラだ


『暇だったら今から俺の好きな飲み物とアイス買って家に来て欲しいお願い ごめんね』


あいつ、風邪で寝込んでるんだっけ

今日は家に誰もいないのか⋯
一瞬迷ったけど、指は勝手に動いていた。


『了解』


短くそれだけ打って送信。

ふぅっと息をつき、近くのコンビニへと入る。
アイスのコーナーで立ち止まり、冷気に当たりながら悩む。

「アイス……あいつチョコ派だったっけ、バニラだったっけ」
「飲み物はスポドリ……いや、ポカリのほうが好きだったよな」

結局、ヒラが好きそうな味を片っ端からかごに入れる。
甘いやつも、冷たいジュースも、アイスも。
まるで「お見舞いセット」みたいな買い方をしていた。

レジでお金を払って袋を持ち、外に出ると、風が少し強くなっていた。
夕焼けはもう薄暗くなり、街灯がぽつぽつと光り始める。

「風邪だけは移すなよ」

小さくつぶやいて、あたしはヒラの家へと足を向けた。



ヒラの家の前に着いた

インターホンを鳴らしても出てこない
思わずドアノブに手をかけると開いている


「え、こわっ入っていいのかな?」


一応さっきからヒラにLINEしてるけど返事が無い

最悪の状況が頭に浮かぶ


「た、倒れてるとか流石に⋯ないよな⋯?」


そう考えたらあたしは扉を開けてヒラの部屋へ向かって行っていた


「お邪魔しまーす」


リビングを通って、いつものように真っ直ぐ階段を上がる。
ヒラの部屋のドアを軽くノックしてみたけど、反応なし。



「ヒラ、来たよー?」



返事はない。
恐る恐るドアを開けると、ヒラがぐっすり眠っていた。
寝息が規則的で、顔は少し赤い。熱、やっぱあるんだろうな。


声をかけても全然起きる気配がない。
しょうがなく、買ってきた飲み物とアイスを机の上に置いた。

そのあと布団の端に腰を下ろして、じっとヒラの寝顔を見つめる。


「……世話焼かせんなっての」


そう言いつつも、安心したのか、口元が緩んでしまう。
なんか、弱っててちょっとだけ可愛い。

そっと前髪をかきあげてみると、額が熱かった。
ほんとに熱あるじゃん……。


「……大丈夫かよ」


呟きながら、濡れタオルを取りに立ち上がった。


「あおちゃんっ⋯⋯」


かすれた声に足が止まった。
振り返ると、ヒラが薄く目を開けてこちらを見ていた。


「お、お前起きてたの? ちょっと待って、タオル――」

「……嫌だ行かないでっ」


弱々しい声と一緒に、布団の隙間から伸ばされた手があたしの手首を掴む。
そのままぐいっと引かれて、バランスを崩した。


「わっ……!」


気づけば布団の中に引きずり込まれていた。
至近距離で熱を帯びたヒラの顔。
呼吸が近くて、心臓が跳ねる。


「ちょ、なにしてんの!あんた熱あんでしょ!?」

「……いいから。ちょっとでいいから、ここにいてよ」


呟きながらも、あたしは抵抗できず布団の中で落ち着いてしまった。
ヒラの手はまだあたしの手首を握ったままで、じんわり温かい。

熱で赤くなってるのか、照れてるのかわからない。
でもその目はまっすぐで、逃げられなかった。


「来てくれてありがとう⋯」

「ねぇ今何してるか自分でわかってる??離して?」
「てか風邪移ったらどうすんの?修学旅行は?」


「葵はバカだから風邪ひかない」

「お前病人だからってなんでも言っていいと思うなよ」


「んふふ葵が目の前にいるぅ⋯⋯」


そう言ってヒラはあたしに抱きついてきた


「ちょ、ちょっと!抱きつくなって!」


引きはがそうとするけど、力は強くて、結局あたしは動けなくなった。
腕の中に閉じ込められたみたいにされて、心臓がドクドクうるさい。


「……俺より冷たくて気持ちいい⋯」
「はぁ」
「葵に⋯会いたかったの」


子どもみたいに呟く声が耳元にかかって、思わず固まる。
息が当たってくすぐったいのに、振りほどけない。


「……もう勝手にすれば」


そう答えたけど、顔が熱いのはたぶんあたしも同じ。
ヒラは安心したように小さく笑って、ゆっくりと目を閉じた。




「……大好きだよ」


かすかな寝言みたいな声が聞こえて、胸がぎゅっと締め付けられる。


「……っ……バカ」


そう呟いても、もう返事はない。
ヒラはあたしの手首を握ったまま、寝てしまった。

仕方なく布団の中で天井を見上げながら、心臓の音を抑えようとするけど――無理だった。


「……ほんと、なんなんだよ」


寝るにしてもさっきまで寝てたからもう寝れないし
スマホもカバンの中だから何も出来ない
どうしよ⋯
夜まで寝んのかな⋯⋯
こーすけにバレたら怒られちゃうよな⋯⋯⋯

まぁいっか
今日くらいはこうされてても

ヒラん家の柔軟剤の匂いが甘くて自然と落ち着いてしまう


先生のことをずっと考えていたら気づくともう7時になっていた

これが先生だったら良かったのに⋯

まだヒラの寝息が耳元で聞こえる
そろそろ帰りたいんだけど⋯⋯


「ねぇヒラ起きて」

「んんっ⋯⋯おはよぉ」

「起きた?」

「⋯⋯あぁあおちゃんだ」


あああああまた始まったよヒラの甘えたモード
でも悪くないスキンシップがいつもより多くなるだけで


「ずっとここにいてくれたの?」

「そりゃホールドされてんもん」

「かわいいっあおちゃんんふふ」

「もういいって」


「あおちゃんが⋯隣にいたら落ち着くの」

「隣って言うか?これ」

「ぎゅー」

「はぁぁ⋯⋯」

「じゃあ俺が今あおちゃんに、ちゅーしたら?どうする?」

「何言ってんの」

「していいの?」

「ダメに決まってんだろ」

「んふふわかってるよ〜」


ヒラに手のひらで転がされてるみたい
甘えた口調で、甘えた声でそんなこと言われたら
ドキドキしないわけがない
幼馴染とこんなのありえないでしょ
最初のキスは先生と⋯もう無理か


「ねぇ、葵」

「何」


ヒラはあたしから離れて目が合う形になる
恥ずかしくて思わず逸らしてしまう



「葵はほんと可愛いね」

「⋯⋯なに?」

「そろそろ起きるね」


「あ、うん」


待ってあたし何期待してたんだ今
何かあるわけないでしょ
何考えてんだよ
あったらダメなんだよ普通に


「うわぁポカリだありがとう」


嬉しそうにポカリを顔に当てて冷やしてる
ヒラは昔から変わらないな


「さっき俺がなんかしてくると思った?」

「は?」

「何もしないんだみたいな顔してたよ」

「別に⋯⋯」

「葵が嘘つく時っていつも別にって言うよね」

「うるせぇな」


ヒラを叩くとニコニコしてる。ドMか


そうするとヒラが近ずいて来て
あたしが後ずさりしようとしたら
壁でもう逃げられない


「期待したんでしょ」


そうヒラは耳元で呟いてきた
ほぼ壁ドン状態で逃げれない



「ちょ、何?」


「俺も男って分かってる?」

「は?」

「男が1人しかいない家に上がり込んでさ、危機感無さすぎだよ」

「ヒラ?」

「何されても文句言えないよ?」

「⋯⋯⋯いやあんただし」


ヒラが何を考えてるかわからない
今はどうするべきかも⋯けどこのまま流されてしまったら良くない気がする


ていうかあんたがしんどそうだから来てやっただけなのに


「いや、これは良くないね!ごめん」


そう言ってヒラはあたしから距離を取った


「バカ⋯⋯」

「熱があるからかな?今日俺変かも、ごめん、傷つけたくないから帰って」

「⋯⋯わかった」

「ごめん来てくれたのに」

「早く元気になれよ」

「ん〜でも最後に」


ヒラはあたしを抱きしめた
ヒラの体が風邪のせいか、何なのか分からないが震えてて、どうすることも出来なかった


「充電する」

「きっしょ」



そう返すと、ヒラはふっと笑って、ゆっくり腕をほどいた。
名残惜しそうに見えたけど、知らないふりをした



「葵にそう言われんの、なんか安心する」

「は?なにそれ」

「ほら、いつも通りって感じ」

「もう寝なよ」
「あたしもそろそろ帰るし」

「わかった来てくれてありがとう助かったよ」


ヒラは小さく笑って、布団に潜り直した。
その顔は少し赤いままで、苦しそうだった


「……ちゃんと寝とけよ?水分も飲めよな何かあったらまた連絡して?」

「ありがとうっ」

返ってきた声は、さっきより少し安心したみたいに聞こえた。
あたしは「うん」とだけ返して、机の上に置いてあったペットボトルを手の届く位置に移してやる。

「玄関まで送れなくてごめん」

「いいよそんなの」

「気おつけて帰ってね」

「ありがとう」


ヒラの目はもう半分閉じていて、返事をしたあとすぐに呼吸がゆっくりになった。
本当に眠ってしまったらしい。


あたしは立ち上がって、そっと部屋のドアを開ける。
きしむ音を立てないように、慎重に閉めた。

リビングに出ると、カーテンの隙間から夕暮れの光が差し込んでいて、部屋の中がオレンジ色に染まっていた。
買ってきた袋の中には、まだ手をつけてないアイスがひとつ。冷凍庫を勝手に開けて入れておく。


「……よし」


小さく息を吐いて、玄関に向かった


外に出ると、蒸し暑い空気と、どこかひんやりした風が同時に押し寄せてくる。
夜の気配が近づいていて、遠くでセミの声が弱々しく聞こえた。

「……帰ろ」

ヒラの家を出るとこーすけがいた


「よっ」

「なんでいんの」

「ヒラから連絡来て葵迎えに来て欲しいって言われたからさ」
「早く帰ろ!ご飯できてるよ」

「よっしゃ!!」


そうして二人並んで歩き出した
帰り道、こーすけはヒラの心配ばっかで
あたしよりお前が行くべきだろって笑いあった



そうしてると見覚えのある人が前から向かってくる


「うわぁぁ葵じゃーん!!」


げ、先生じゃん⋯⋯めっちゃ会いたかった⋯⋯
こーすけもいるしこんな道端で逃げることなんか出来ないし、、、喋るしかないか


「先生っ」

「葵〜んふふ今日も可愛い!!」


か、可愛い⋯?!//
彼女いるくせにそうやって誰にでも言うんだね
酷い人
だけど、どうしようもないくらい好きなんだよな⋯⋯


「ん〜俺もいるんだけどなぁもしかして見えてねぇのかな」

「俺葵しか見えねぇ」


何言ってんのこーすけの前で
そういえばこうしてちゃんと話すのいつぶりだっけ⋯
なんか別れたカップルがたまたま会ったみたいな感じ
そう思ってるのはきっとあたしだけなんだろう


「今日も暑いなぁ、葵」


視線がぶつかるだけで胸がぎゅっとなる。
先生は少しだけ近づいて来た


「……ちょっと、近いって」

「ん〜俺はいつでも近くにいたい派ー」

「ちょっと⋯」


こーすけがニヤニヤして遠くにある自動販売機に行ってしまった
おぉぉぉい無駄に空気読むな
今は隣にいてくれよ
そんなことを心の中で叫んでも、事情を知らないこーすけには届かなくて


「な、今日の委員もすっぽかしてどうしたんだよ」

「ヒラの看病してたんだよ」

「ラーヒーん家で?」

「そうだけど」

「へ〜一人?」


先生の声が少し低くなる。
その瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。


「……うん、まあ……」

思わず小さく答える。顔が熱くなるのがわかる。

「ふーん
「看病ねぇ、優しいじゃん」


明らかに嫉妬してる顔。
なんでそんな顔するの?他に女いるくせに


「何?嫉妬してんの?」

あたしは冗談ぽく言うと

突然あたしの耳元に近ずいて来てかすれるくらいの声で囁いてきた。
心臓がバクバクしてうるさい。


「……葵が他の男のそばにいるの⋯嫌なんだよ」

「せ、先生のじゃないし」

「なんか葵前と変わったよな⋯俺のこと嫌いになった?俺から離れようとしてる?」

「そんなの⋯⋯」

「俺は⋯⋯ずっとお前が⋯⋯⋯」


そんな悲しそうな顔して言わないでよ⋯
ねぇ先生あたしが悪いの?

そうしてると、こーすけが
あたし達を引き離して


「はいイチャイチャタイム終了〜」


タイミング良いんだか悪いんだか⋯
だけどさっきまで先生が悲しそうな顔してたのにパッと明るくなった


「イチャイチャなんかしてねぇよ!なぁ葵」

「う、うん」

「道のど真ん中でイチャイチャすんな個室でやってくれ」


「やらねぇわ」


「じゃ、帰ろっか」


先生は少し不満そうに肩をすくめながらあたしに手のひらを見せてきた

これはいつも帰る時にハイタッチしてたやつ

先生は"おいで葵"みたいな顔するから
仕方なくハイタッチした


先生はニヤリと笑って、一瞬握られて頭を撫でられた。
その温もりに、思わず心がぎゅっとなる。

あぁ好きです⋯⋯


「じゃあバイバイ先生」

「気をつけて帰れよお前ら」


そうして先生は帰っていった


あたしは先生の背中を見送りながら、ふっと息を吐いた。
心臓はまだバクバクしていて、顔も耳も熱い。

…ほんと、なんでこんなにドキドキするんだよ

こーすけはそんなあたしの表情に気づいたのか、にやっと笑って言った。


「ほんとキヨのこと大好きだよな〜いいなぁ俺もそんな恋愛してぇ」

「うるさい」


こーすけはあたしの髪をクシャとして微笑んだ。


家に帰ってご飯を食べたあと自分の部屋で
ふっと息を吐く。


「好き……」


思わずつぶやく声に、誰も返事はしないけど、それでいい。
胸の高鳴りを落ち着かせようと、ベッドに腰を下ろす。自然とまた、涙がこぼれ落ちる


頭の中はさっきの先生の顔でいっぱいだ。
あの笑顔、あの手の感触、耳元で囁く甘い声……全部が好き。



「避けるって決めてたのにな⋯⋯」


そんなことあの笑顔を見たらできるはずがない
でも裏切ったのは、先生なのに⋯

そうしていたら瞼が重くなってきて気づいたら眠っていた。



_____
日々は案外早く過ぎ去っていった


金曜日、ようやくヒラが元気を取り戻し、いつもの冗談混じりの会話が戻ってきた。


この一週間、先生と出くわすこともなく、授業もいつも通りで、何も起こらずに過ぎていった。
心の奥では、どこかで「会いたい」と思ってても、表向きは平静を装うしかなかった。


土曜日、日曜日も特に変わったことはなく、家ではいつものようにこーすけが作ったご飯を食べ、バイトに行って、ヒラが家にきてこーすけと3人で遊んだ


そして月曜日。修学旅行の朝がやってきた。
先生は修学旅行には来なくてちょっと寂しい。
3日間先生に会えないなら最後に話しとくべきだったな。でもこれが正解なのかも



最後に荷物を確認し、出発の準備を整える。


そのタイミングで、玲斗くんから初めてDMが来た

『葵、今日楽しみやな!』

と書いてあった
そ、それだけ?返事する側の気持ちとか、考えて欲しいわ。気まずマジでなんなん

なんて返そうか迷う

スルーする? ちゃんと返す?
やばいほんとに興味ない人と連絡取るの面倒くさすぎる

まぁ適当に「楽しもうね」とか送っとこ


そういえば空港まで現地集合だっけ


「葵〜!!そろそろ出る時間じゃないなかー?置いてくぞ〜」


聞き馴染みこの声が聞こえて猛ダッシュでリビンに向かった


「え、、パパ!!!」

そこには2〜3ヶ月ほど出張で家にいなかったパバがいた


「んふふ葵会いたかったよ帰って来れなくてすまない」

「たまたま父さんが帰ってくる日が今日だったから空港まで送ってくれるって」


「えええ!!そうなん!!?おかえりパパぁ」


あたしはパパに抱き着くとパパは嬉しそうに頭を撫でてくれた


「1ヶ月くらい仕事休みだから、帰ってきたらゲームしよっか」

「ま、まさか」

「ホラーゲームです!!」

「もーいやぁぁ」


「ちょ時間ないから行くよ〜色んな人迎えに行かないと」



そうしてあたし達はヒラとナチを捕まえて無事飛行機につき、北海道に向かった。




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