放課後、先生との秘密
35話 修学旅行1日目 終了
その一言で思考がが一瞬止まった。
周りは「葵の線香花火落ちたぞ〜」とか言ってるけどそんな場合じゃない。
「付き合ったから」その言葉が頭の中でループし続ける
親友を失うみたいな焦りと、説明できないざわつき
そんなあたしの顔を見て、ヒラの口角が上がった
ヒラ 「んふふ、冗談だよ〜嫉妬してんじゃーん可愛い!!」
葵 「……はぁ??!バカっ!!!紛らわしいんだよ!!嫉妬なんかするわけねぇだろ!!」
言葉に表せれないくらい安心した
胸の奥で渦巻いてた不安や焦りが、冗談だとわかった瞬間に一気にほどけて、思わず涙が出そうになる。
あんなに焦っていたのに、今は信じられないくらい安心してる。
あたしはヒラの肩を叩いた
ヒラ 「痛ってぇ!!」
ヒラ 「あぁ!葵のせいで線香花火落ちちゃったじゃん!」
葵 「……しらねぇわそんなん!ほんっとにムカつく」
口ではそう言いながら、心の中では何度も何度も繰り返してた。
「よかった」って。
ナチ 「あんたらうるさいよバレたらどうすんの!」
フジ 「イチャイチャすんなって〜」
こーすけ 「フジ人の事言えてねぇよ?」
ナナ 「なんで泣きそうになってんの葵」
葵 「別に?」
みんなさっきまでの会話聞こえてなくてよかった
絶対なんかいじられるし
ヒラ「俺はずっと葵しか無理だから」
そうしっかりあたしを見て言われると思わず照れてしまう。
けどそれでいいんだよ
ずっとあたしの隣で笑ってて欲しい。
ずっとあたしのこと好きでいて欲しい。
あたしに何かあったら先生の次に駆けつけてきて欲しい。
そう思う
この気持ちはなんなんだ
好きとはまた違う
ヒラに依存してるのかな…
葵 「お願い離れないで」
こんなこと好きでもない人に言うことじゃないのはわかってる。
だけどヒラは誰にも取られたくない…酷い人間だあたしは
ヒラ 「…それ、ずるいよ……」
ヒラが辛そうな顔をしてる
ヒラの気持ちには答えてあげれないのに
そうだよね…そりゃそうなるよね…
葵 「ごめん…でも本心だから」
ヒラ 「そうやって葵は…俺の気持ちを」
葵 「どうしてもヒラは取られなくないの…」
真っ直ぐに素直な言葉が口から出た
ヒラは驚いた顔をした
ヒラ 「それ思わせぶりって言うんだよ」
葵 「でもっ」
ヒラ 「好きになってくれないくせに、そんな事言うの…」
その声は小さく震えていて、どこか泣きそうに聞こえた。
あたしの胸がぎゅっと締め付けられる。
葵 「……ごめん、ほんとにごめんヒラ」
頭ではわかってる。
最低だって思うのに、口からは止められない言葉が出てしまう。
ヒラは黙ったまま、あたしをじっと見ていた。
暗闇の中で視線だけが絡み合う。
ヒラ 「葵は本当に俺のこと、好きじゃないんだよね?」
先生以外好きになること、出来ない。
嘘は言えない。けど傷つけたくもない。
葵 「……好き、とは違うでも……大事なんだよ、すごく」
ヒラはふっと笑った。けどそれは、諦めたような苦しい笑顔だった。
ヒラ 「葵のバーカっ」
そう言いながら、ヒラはあたしの頭を軽く撫でてくる。
痛くて、涙がにじんだ。
――その時、後ろからナチの声が飛んできた。
ナチ 「ちょっとー!2人して何暗い顔してんの!線香花火第2弾やるよ!」
こーすけ 「お前ら隅っこで何語ってんの?」
ヒラはいつもの調子に戻ったみたいに笑って
ヒラ 「葵にいじめられた〜」
そう言ってヒラは花火を取りに行った
ヒラside_____
何あの葵……自分の気持ちに整理ついてない顔してたなぁ
俺を傷つけないようにしてた言葉使いも全部可愛い
取られたくないって何?大事って何?
それって好きってことじゃないの?なんなの?
あぁなんであんな可愛いんだろ
できるなら俺のものに今すぐしたい
確かに俺は、葵が俺に確実に依存させるために今まで沢山行動してきた。
人って寂しい時、辛い時、怖い時に寄り添ってくれた人に依存しやすいんだって。
けど、ここまでとは思わなかった。
流石にその依存が好きだって勘違いできるような子じゃなかったか……
ここまで来てなんでまだキヨに勝てないんだよ……
それでも。
あんなふうに泣きそうな顔で縋られたら、期待してしまう。
「大事」だなんて言葉を聞いたら、もう簡単には手放せなくなる。
なんならもっと好きになってしまった。
どれだけ“キヨ”っていう存在がデカくても、葵が俺を必要としてくれる限り、ここにいる理由にまだなれる。
遠くで葵が笑う声がして、思わずそっちを見てしまう。
月の光でよりはっきり見えるようになった葵は、やっぱり綺麗で、どうしても目を離せなかった。
俺と葵の分の線香花火を持って元いた場所へ帰った
俺は葵しか好きになれない。
多分この先も葵を超えることは無い
けどそんなんじゃ一生1人のままだ。
今日告白してくれた子と付き合って、その子を無理やり好きだって思うようにしても良かったのかも。
今の葵だったら嫉妬して、泣いて俺のこともっと考えてくれたのかもしれない。
けど終わった話はもういいや。
どうせいつかは誤解が解かれて、先生と付き合って、俺なんか見向きもしなくなる。だけど今は俺が葵を独り占めしたい
ずっと月を見てる葵が今何を考えてるかよく分からない。きっとキヨのことなんだろうな……
俺だったらいいのに…
「月が綺麗だね葵」
「そうだねぇ」
意味をわかっていない返事に、思わず苦笑する
無自覚って怖いよね
俺は息を整えて、線香花火に火をつける。
その小さな火が、月の光に溶けて揺れるのを、俺はただ見つめる。
どうしようもなく泣きそうなのを堪えて。
そうしていると後ろからシャッター音が聞こえた
ナチ 「あんたらしんみりしすぎだよ」
そりゃこんな空気にもなるでしょ。
葵 「線香花火って儚ないよね」
ヒラ 「どうしたの儚いとか言葉知ってたんだ?頭でも打った?」
葵 「お前うざい」
ナチ 「んふふ夫婦喧嘩すな」
葵と目が会って微笑んだ
かわいいなこの笑顔。
ずっと俺が独り占めできると思ってたのに。
ナチがまたその様子を撮った
後で貰お
ホーム画面にしようかな。
俺は葵の肩越しに、月を見上げる。
こんな夜が、ずっと続けばいいのに。
ヒラside___END
ナチ「はいはいー、そろそろ片付けるよー!」
フジ「おっけい、ゴミ集めるわ」
みんなが動き出して、火の消えた花火を水に浸けていく。
残った煙がふわっと夜空に消えていった。
先生に会いたい。
最後にした線香花火を見てそう思った。
いやいつも思ってるけど、それ以上に。
胸の奥でずっと響いてる。
会いたい。触れたい。声を聞きたい。
一瞬で消えてしまう線香花火みたいに、今のこの気持ちも儚いのかなって不安になる。
もしかしたら、あたしの先生への気持ちも一瞬の気持ちなのかもしれない。
まぁそんなことあるわけないけど。
ホテルに帰っている最中こーすけが隣に来た
やっぱり昨日より体がでかくなってる気がする
「花火楽しかったか?」
「うん楽しかった」
「そっかなら良かった」
そう言っていつもみたいに頭を撫でられる
だけど今日はいつもより長い
「なに?」
「んふふ可愛い大好き〜」
「何?キモいよ普通に」
「いや普通にはしゃいでる葵可愛かったから」
「きしょい」
「言い過ぎだろ」
まだ頭を撫でてくるからあたしはこーすけから逃げた。髪の毛ぐちゃぐちゃじゃん…
なのにこーすけは走ってまたあたしの隣に来た
「あーもうこーちゃん傷ついた〜」
「鬱陶しいよそろそろ」
「うざっ笑笑」
そうしてるとホテルのエレベーターに着いていた
「じゃあねこーすけ」
「明日お前何かしらやらかしそうだから気をつけろよ」
「そんなドジじゃないですー」
「なんかあったら俺助けれないよ」
こーすけがすっごい不安そうな顔でそういった
そんなあたしってドジなのかな
「ヒラもナチもいるから大丈夫だって」
「悪い報告は聞きたくないからな?わかった?」
「はいはい」
「じゃあまたな葵」
エレベーターの扉が閉まる瞬間まで、こーすけが手をひらひら振ってくる。
……ほんと過保護すぎ。
ナチ 「こーすけってもう葵の親だよな」
葵 「過保護すぎるでしょ」
アリサ 「愛されてていいじゃん」
葵 「まぁ嫌ではないけど」
そんなふうに笑い合ってるうちに、エレベーターがチンと音を立てて止まった。
アリサとナナは別のクラスだから、降りる階も違う。
アリサ 「じゃ、うちらここでバイバーイ!」
ナナ 「また明日ね〜」
葵 「おやすみ」
ナチ 「歯磨けよー」
ナナ 「んはお母さんか」
笑いながら二人が降りていって、扉が閉まる。
ナチ 「……なんか、修学旅行って感じだね」
葵 「だねぇ」
そんなことを言いながら自分たちの階に着き、部屋に向かう。
廊下は薄暗くて静か。廊下の突き当たりで、担任が巡回しているのが見えた。
――やば。ギリギリセーフ!!
ナチと目を合わせて、そっと小声で笑った。
担任の足音が遠ざかるのを確認してから、あたしたちはそっと部屋のドアを開けた。
中ではすでに、同じ部屋の子たちがパジャマ姿でベッドに腰かけてトランプをして遊んでる。
ナチ 「ただいま〜ギリギリセーフ」
「おかえりー!」
「花火どうだった?」
みんなが一斉に声をかけてくれる。
葵 「めっちゃ楽しかった!」
ベッドに腰を下ろすと、ナチがすかさずお菓子の袋を差し出してきた。
チョコを一つ口に入れた瞬間――
モブ1「ねぇねぇ、恋バナしよーよ!」
さすが修学旅行って感じ。
恋バナか…心が痛い
ナチ 「おっ、きたねぇ」
ナチと目が合う
「無理しなくていいよ」って顔してて、あたしはうんとだけ言った
モブ1「修学旅行といえば恋バナでしょ!」
葵「2人は誰か気になってる人いんの?」
先生のこと話したくないし、バレたくないから仕切り役に回った
みんながわちゃわちゃしながら枕を抱きしめたり、ベッドを転がったりしてる。
モブ1「私はねぇ好きな人って言うか推しかな?絶対叶わないし」
ナチ 「学校で?」
モブ1 「うんっ」
少し照れた顔をした
なんか嫌な予感するんだけど…
葵「ちなみに誰?」
モブ1 「き、清川先生っ!!」
ほら嫌な予感が当たった。
そりゃかっこいいもんね、モテるよあの人は
なんかすっごい嫌…
モブ2 「そういえば葵はキヨと付き合ってるの?」
ナチ 「んはは何言ってんの付き合ってるわけないじゃん」
ナチが庇ってくれた
先生の話はできるだけあまりしたくない
モブ2 「でもリアが…」
またリアか
そういえばこの2人リアと仲良いんだっけ…最悪
明日も2人と同じ部屋だから険悪な雰囲気には出来ない。
葵「付き合ってたらやばいっしょ?」
モブ2 「だよね、さすがにないかぁ」
モブ1 「けど、先生のこと好き?」
葵 「⋯⋯いやっ」
思わず黙り込んでしまった。
そりゃ誰よりも好きだよ大好きだ。
けど先生には女の人がいて…
あぁ辛い。
てかそこまで仲良くない人に好きな人が誰とか、言いたくないし。
ナチ 「てかまって明日6時起きじゃね?もう12時じゃん」
モブ2 「うわほんとだ!明日山登りだもんね寝たいとやばそう」
モブ1「え〜今からがいいとこじゃーん」
葵 「また明日も話せるっしょ」
モブ1 「まぁそうだね!」
モブ2 「じゃあおやすみー!」
電気が消えて、部屋は一気に暗くなった。
静まり返った空間に、布団の擦れる音だけが小さく響く。
目を閉じても寝れない。
ずっと先生の事ばかり考えて。
すっごく会いたい
今すぐ会って抱きしめて欲しい
思わず涙が出そうになって、ギリギリで耐えた
みんなが静かになった頃、隣の布団から「……葵、起きてる?」って小さな声がした。
葵 「ん……起きてる」
ナチ 「だよな、なんか寝れてない顔してた」
葵 「バレてた?」
ナチ 「それくらいわかるわ」
布団の中で、小さく笑い合った。
ナチ 「あたしはさ、あんたとヒラは付き合うものだと思ってた」
葵「ヒラね…」
口にした瞬間、胸の奥がざわっとした。
頭に浮かぶのは、さっきの花火のときのヒラの顔。
優しくて、でもどこか苦しそうで……
ナチ 「だって小さい頃からずっと一緒だし、ヒラってほんと昔っから葵ばっか見てんじゃん」
最近の事じゃないんだ…
ナチ 「体育の試合で葵が出たら、真っ先にヒラが応援してたし。
葵がケガしたら誰よりも先に駆けつけてたじゃん」
葵 「……あ、あぁ……そんなこともあったね」
忘れてたわけじゃない。
でも、その時は当たり前すぎて気づかなかったんだ。
ナチ 「それでもキヨがいいんだよな?」
葵 「うん…」
胸がぎゅっと痛くなる。
ナチ 「なんで、ヒラのことは好きになんないの?」
葵 「なんでって…友達だから?」
ナチが突然黙り込んだ。
1分くらい経った後にため息をついて
ナチ 「ごめんうちさ、あんたらが花火してたときの会話聞いてたんだよ」
葵 「……っ!い、いつから?」
ナチ 「ん〜あんたがヒラの肩叩いた時からかな?アリサはあたしの話に夢中だったから多分聞いてないよ安心して」
布団の中で息が止まった。
好きでもない人に思わせ振りな言葉を言ってしまったことにまた自責してしまう。
ナチ 「その嫉妬は好きって気持ちじゃないの?取られたくないって一度でも思ったら好きだと思うけどな」
葵 「違う…」
ナチ 「なんで?」
葵 「なんでって言われても…友達としてはそりゃ好きだけどさ」
ナチ 「葵が勘違いしちゃえば2人とも辛くならないのに…」
葵 「なにが?」
ナチ 「なんでもねぇよ〜もう寝よ」
葵 「いや気になりすぎて寝れないよ?」
ナチ 「んふふだってさ。もし葵が“あれ?これ好きってことかも”って勘違いして、ヒラの気持ちに寄り添えたら……報われるじゃん」
葵 「……」
ナチ 「それに葵も、先生のことでしんどくなること少しは減るんじゃないかって」
葵 「……そんな簡単に気持ち切り替えられるなら、とっくにしてるよ」
静かにそう答えると、ナチはしばらく黙って天井を見ていた。
布団の中の静寂がやけに重たい。
ナチ 「……やっぱりキヨなんだな」
葵 「……うん」
ナチ 「まぁどっちに転んだとしても、葵の幸せは応援するから」
小さく笑ったナチの声には、少しだけ諦め混じりの優しさがあった。
わざとらしく不機嫌そうにしてるけど、その目は優しかった。
ナチ 「ほら、まじでもう寝よ。明日山登りで死ぬから」
葵 「うん……」
電気を消すと、部屋は一気に暗くなる。
布団に潜り込みながら、ナチの言葉を思い出す。
“どっちに転んでも応援するから”
その優しさが胸に響いて、少しだけ涙がにじんだ。
なんかもうよく分かんなくなってきた
ヒラの気持ちも何もかも……
その日の夢には先生が出てきて、後ろから抱き締められながらマリカをした。
やっぱりこんなにドキドキするのも、好きだと感じるのも先生だけなんだと再確認できた。
あぁ早く……会いたい
2日目に続く
周りは「葵の線香花火落ちたぞ〜」とか言ってるけどそんな場合じゃない。
「付き合ったから」その言葉が頭の中でループし続ける
親友を失うみたいな焦りと、説明できないざわつき
そんなあたしの顔を見て、ヒラの口角が上がった
ヒラ 「んふふ、冗談だよ〜嫉妬してんじゃーん可愛い!!」
葵 「……はぁ??!バカっ!!!紛らわしいんだよ!!嫉妬なんかするわけねぇだろ!!」
言葉に表せれないくらい安心した
胸の奥で渦巻いてた不安や焦りが、冗談だとわかった瞬間に一気にほどけて、思わず涙が出そうになる。
あんなに焦っていたのに、今は信じられないくらい安心してる。
あたしはヒラの肩を叩いた
ヒラ 「痛ってぇ!!」
ヒラ 「あぁ!葵のせいで線香花火落ちちゃったじゃん!」
葵 「……しらねぇわそんなん!ほんっとにムカつく」
口ではそう言いながら、心の中では何度も何度も繰り返してた。
「よかった」って。
ナチ 「あんたらうるさいよバレたらどうすんの!」
フジ 「イチャイチャすんなって〜」
こーすけ 「フジ人の事言えてねぇよ?」
ナナ 「なんで泣きそうになってんの葵」
葵 「別に?」
みんなさっきまでの会話聞こえてなくてよかった
絶対なんかいじられるし
ヒラ「俺はずっと葵しか無理だから」
そうしっかりあたしを見て言われると思わず照れてしまう。
けどそれでいいんだよ
ずっとあたしの隣で笑ってて欲しい。
ずっとあたしのこと好きでいて欲しい。
あたしに何かあったら先生の次に駆けつけてきて欲しい。
そう思う
この気持ちはなんなんだ
好きとはまた違う
ヒラに依存してるのかな…
葵 「お願い離れないで」
こんなこと好きでもない人に言うことじゃないのはわかってる。
だけどヒラは誰にも取られたくない…酷い人間だあたしは
ヒラ 「…それ、ずるいよ……」
ヒラが辛そうな顔をしてる
ヒラの気持ちには答えてあげれないのに
そうだよね…そりゃそうなるよね…
葵 「ごめん…でも本心だから」
ヒラ 「そうやって葵は…俺の気持ちを」
葵 「どうしてもヒラは取られなくないの…」
真っ直ぐに素直な言葉が口から出た
ヒラは驚いた顔をした
ヒラ 「それ思わせぶりって言うんだよ」
葵 「でもっ」
ヒラ 「好きになってくれないくせに、そんな事言うの…」
その声は小さく震えていて、どこか泣きそうに聞こえた。
あたしの胸がぎゅっと締め付けられる。
葵 「……ごめん、ほんとにごめんヒラ」
頭ではわかってる。
最低だって思うのに、口からは止められない言葉が出てしまう。
ヒラは黙ったまま、あたしをじっと見ていた。
暗闇の中で視線だけが絡み合う。
ヒラ 「葵は本当に俺のこと、好きじゃないんだよね?」
先生以外好きになること、出来ない。
嘘は言えない。けど傷つけたくもない。
葵 「……好き、とは違うでも……大事なんだよ、すごく」
ヒラはふっと笑った。けどそれは、諦めたような苦しい笑顔だった。
ヒラ 「葵のバーカっ」
そう言いながら、ヒラはあたしの頭を軽く撫でてくる。
痛くて、涙がにじんだ。
――その時、後ろからナチの声が飛んできた。
ナチ 「ちょっとー!2人して何暗い顔してんの!線香花火第2弾やるよ!」
こーすけ 「お前ら隅っこで何語ってんの?」
ヒラはいつもの調子に戻ったみたいに笑って
ヒラ 「葵にいじめられた〜」
そう言ってヒラは花火を取りに行った
ヒラside_____
何あの葵……自分の気持ちに整理ついてない顔してたなぁ
俺を傷つけないようにしてた言葉使いも全部可愛い
取られたくないって何?大事って何?
それって好きってことじゃないの?なんなの?
あぁなんであんな可愛いんだろ
できるなら俺のものに今すぐしたい
確かに俺は、葵が俺に確実に依存させるために今まで沢山行動してきた。
人って寂しい時、辛い時、怖い時に寄り添ってくれた人に依存しやすいんだって。
けど、ここまでとは思わなかった。
流石にその依存が好きだって勘違いできるような子じゃなかったか……
ここまで来てなんでまだキヨに勝てないんだよ……
それでも。
あんなふうに泣きそうな顔で縋られたら、期待してしまう。
「大事」だなんて言葉を聞いたら、もう簡単には手放せなくなる。
なんならもっと好きになってしまった。
どれだけ“キヨ”っていう存在がデカくても、葵が俺を必要としてくれる限り、ここにいる理由にまだなれる。
遠くで葵が笑う声がして、思わずそっちを見てしまう。
月の光でよりはっきり見えるようになった葵は、やっぱり綺麗で、どうしても目を離せなかった。
俺と葵の分の線香花火を持って元いた場所へ帰った
俺は葵しか好きになれない。
多分この先も葵を超えることは無い
けどそんなんじゃ一生1人のままだ。
今日告白してくれた子と付き合って、その子を無理やり好きだって思うようにしても良かったのかも。
今の葵だったら嫉妬して、泣いて俺のこともっと考えてくれたのかもしれない。
けど終わった話はもういいや。
どうせいつかは誤解が解かれて、先生と付き合って、俺なんか見向きもしなくなる。だけど今は俺が葵を独り占めしたい
ずっと月を見てる葵が今何を考えてるかよく分からない。きっとキヨのことなんだろうな……
俺だったらいいのに…
「月が綺麗だね葵」
「そうだねぇ」
意味をわかっていない返事に、思わず苦笑する
無自覚って怖いよね
俺は息を整えて、線香花火に火をつける。
その小さな火が、月の光に溶けて揺れるのを、俺はただ見つめる。
どうしようもなく泣きそうなのを堪えて。
そうしていると後ろからシャッター音が聞こえた
ナチ 「あんたらしんみりしすぎだよ」
そりゃこんな空気にもなるでしょ。
葵 「線香花火って儚ないよね」
ヒラ 「どうしたの儚いとか言葉知ってたんだ?頭でも打った?」
葵 「お前うざい」
ナチ 「んふふ夫婦喧嘩すな」
葵と目が会って微笑んだ
かわいいなこの笑顔。
ずっと俺が独り占めできると思ってたのに。
ナチがまたその様子を撮った
後で貰お
ホーム画面にしようかな。
俺は葵の肩越しに、月を見上げる。
こんな夜が、ずっと続けばいいのに。
ヒラside___END
ナチ「はいはいー、そろそろ片付けるよー!」
フジ「おっけい、ゴミ集めるわ」
みんなが動き出して、火の消えた花火を水に浸けていく。
残った煙がふわっと夜空に消えていった。
先生に会いたい。
最後にした線香花火を見てそう思った。
いやいつも思ってるけど、それ以上に。
胸の奥でずっと響いてる。
会いたい。触れたい。声を聞きたい。
一瞬で消えてしまう線香花火みたいに、今のこの気持ちも儚いのかなって不安になる。
もしかしたら、あたしの先生への気持ちも一瞬の気持ちなのかもしれない。
まぁそんなことあるわけないけど。
ホテルに帰っている最中こーすけが隣に来た
やっぱり昨日より体がでかくなってる気がする
「花火楽しかったか?」
「うん楽しかった」
「そっかなら良かった」
そう言っていつもみたいに頭を撫でられる
だけど今日はいつもより長い
「なに?」
「んふふ可愛い大好き〜」
「何?キモいよ普通に」
「いや普通にはしゃいでる葵可愛かったから」
「きしょい」
「言い過ぎだろ」
まだ頭を撫でてくるからあたしはこーすけから逃げた。髪の毛ぐちゃぐちゃじゃん…
なのにこーすけは走ってまたあたしの隣に来た
「あーもうこーちゃん傷ついた〜」
「鬱陶しいよそろそろ」
「うざっ笑笑」
そうしてるとホテルのエレベーターに着いていた
「じゃあねこーすけ」
「明日お前何かしらやらかしそうだから気をつけろよ」
「そんなドジじゃないですー」
「なんかあったら俺助けれないよ」
こーすけがすっごい不安そうな顔でそういった
そんなあたしってドジなのかな
「ヒラもナチもいるから大丈夫だって」
「悪い報告は聞きたくないからな?わかった?」
「はいはい」
「じゃあまたな葵」
エレベーターの扉が閉まる瞬間まで、こーすけが手をひらひら振ってくる。
……ほんと過保護すぎ。
ナチ 「こーすけってもう葵の親だよな」
葵 「過保護すぎるでしょ」
アリサ 「愛されてていいじゃん」
葵 「まぁ嫌ではないけど」
そんなふうに笑い合ってるうちに、エレベーターがチンと音を立てて止まった。
アリサとナナは別のクラスだから、降りる階も違う。
アリサ 「じゃ、うちらここでバイバーイ!」
ナナ 「また明日ね〜」
葵 「おやすみ」
ナチ 「歯磨けよー」
ナナ 「んはお母さんか」
笑いながら二人が降りていって、扉が閉まる。
ナチ 「……なんか、修学旅行って感じだね」
葵 「だねぇ」
そんなことを言いながら自分たちの階に着き、部屋に向かう。
廊下は薄暗くて静か。廊下の突き当たりで、担任が巡回しているのが見えた。
――やば。ギリギリセーフ!!
ナチと目を合わせて、そっと小声で笑った。
担任の足音が遠ざかるのを確認してから、あたしたちはそっと部屋のドアを開けた。
中ではすでに、同じ部屋の子たちがパジャマ姿でベッドに腰かけてトランプをして遊んでる。
ナチ 「ただいま〜ギリギリセーフ」
「おかえりー!」
「花火どうだった?」
みんなが一斉に声をかけてくれる。
葵 「めっちゃ楽しかった!」
ベッドに腰を下ろすと、ナチがすかさずお菓子の袋を差し出してきた。
チョコを一つ口に入れた瞬間――
モブ1「ねぇねぇ、恋バナしよーよ!」
さすが修学旅行って感じ。
恋バナか…心が痛い
ナチ 「おっ、きたねぇ」
ナチと目が合う
「無理しなくていいよ」って顔してて、あたしはうんとだけ言った
モブ1「修学旅行といえば恋バナでしょ!」
葵「2人は誰か気になってる人いんの?」
先生のこと話したくないし、バレたくないから仕切り役に回った
みんながわちゃわちゃしながら枕を抱きしめたり、ベッドを転がったりしてる。
モブ1「私はねぇ好きな人って言うか推しかな?絶対叶わないし」
ナチ 「学校で?」
モブ1 「うんっ」
少し照れた顔をした
なんか嫌な予感するんだけど…
葵「ちなみに誰?」
モブ1 「き、清川先生っ!!」
ほら嫌な予感が当たった。
そりゃかっこいいもんね、モテるよあの人は
なんかすっごい嫌…
モブ2 「そういえば葵はキヨと付き合ってるの?」
ナチ 「んはは何言ってんの付き合ってるわけないじゃん」
ナチが庇ってくれた
先生の話はできるだけあまりしたくない
モブ2 「でもリアが…」
またリアか
そういえばこの2人リアと仲良いんだっけ…最悪
明日も2人と同じ部屋だから険悪な雰囲気には出来ない。
葵「付き合ってたらやばいっしょ?」
モブ2 「だよね、さすがにないかぁ」
モブ1 「けど、先生のこと好き?」
葵 「⋯⋯いやっ」
思わず黙り込んでしまった。
そりゃ誰よりも好きだよ大好きだ。
けど先生には女の人がいて…
あぁ辛い。
てかそこまで仲良くない人に好きな人が誰とか、言いたくないし。
ナチ 「てかまって明日6時起きじゃね?もう12時じゃん」
モブ2 「うわほんとだ!明日山登りだもんね寝たいとやばそう」
モブ1「え〜今からがいいとこじゃーん」
葵 「また明日も話せるっしょ」
モブ1 「まぁそうだね!」
モブ2 「じゃあおやすみー!」
電気が消えて、部屋は一気に暗くなった。
静まり返った空間に、布団の擦れる音だけが小さく響く。
目を閉じても寝れない。
ずっと先生の事ばかり考えて。
すっごく会いたい
今すぐ会って抱きしめて欲しい
思わず涙が出そうになって、ギリギリで耐えた
みんなが静かになった頃、隣の布団から「……葵、起きてる?」って小さな声がした。
葵 「ん……起きてる」
ナチ 「だよな、なんか寝れてない顔してた」
葵 「バレてた?」
ナチ 「それくらいわかるわ」
布団の中で、小さく笑い合った。
ナチ 「あたしはさ、あんたとヒラは付き合うものだと思ってた」
葵「ヒラね…」
口にした瞬間、胸の奥がざわっとした。
頭に浮かぶのは、さっきの花火のときのヒラの顔。
優しくて、でもどこか苦しそうで……
ナチ 「だって小さい頃からずっと一緒だし、ヒラってほんと昔っから葵ばっか見てんじゃん」
最近の事じゃないんだ…
ナチ 「体育の試合で葵が出たら、真っ先にヒラが応援してたし。
葵がケガしたら誰よりも先に駆けつけてたじゃん」
葵 「……あ、あぁ……そんなこともあったね」
忘れてたわけじゃない。
でも、その時は当たり前すぎて気づかなかったんだ。
ナチ 「それでもキヨがいいんだよな?」
葵 「うん…」
胸がぎゅっと痛くなる。
ナチ 「なんで、ヒラのことは好きになんないの?」
葵 「なんでって…友達だから?」
ナチが突然黙り込んだ。
1分くらい経った後にため息をついて
ナチ 「ごめんうちさ、あんたらが花火してたときの会話聞いてたんだよ」
葵 「……っ!い、いつから?」
ナチ 「ん〜あんたがヒラの肩叩いた時からかな?アリサはあたしの話に夢中だったから多分聞いてないよ安心して」
布団の中で息が止まった。
好きでもない人に思わせ振りな言葉を言ってしまったことにまた自責してしまう。
ナチ 「その嫉妬は好きって気持ちじゃないの?取られたくないって一度でも思ったら好きだと思うけどな」
葵 「違う…」
ナチ 「なんで?」
葵 「なんでって言われても…友達としてはそりゃ好きだけどさ」
ナチ 「葵が勘違いしちゃえば2人とも辛くならないのに…」
葵 「なにが?」
ナチ 「なんでもねぇよ〜もう寝よ」
葵 「いや気になりすぎて寝れないよ?」
ナチ 「んふふだってさ。もし葵が“あれ?これ好きってことかも”って勘違いして、ヒラの気持ちに寄り添えたら……報われるじゃん」
葵 「……」
ナチ 「それに葵も、先生のことでしんどくなること少しは減るんじゃないかって」
葵 「……そんな簡単に気持ち切り替えられるなら、とっくにしてるよ」
静かにそう答えると、ナチはしばらく黙って天井を見ていた。
布団の中の静寂がやけに重たい。
ナチ 「……やっぱりキヨなんだな」
葵 「……うん」
ナチ 「まぁどっちに転んだとしても、葵の幸せは応援するから」
小さく笑ったナチの声には、少しだけ諦め混じりの優しさがあった。
わざとらしく不機嫌そうにしてるけど、その目は優しかった。
ナチ 「ほら、まじでもう寝よ。明日山登りで死ぬから」
葵 「うん……」
電気を消すと、部屋は一気に暗くなる。
布団に潜り込みながら、ナチの言葉を思い出す。
“どっちに転んでも応援するから”
その優しさが胸に響いて、少しだけ涙がにじんだ。
なんかもうよく分かんなくなってきた
ヒラの気持ちも何もかも……
その日の夢には先生が出てきて、後ろから抱き締められながらマリカをした。
やっぱりこんなにドキドキするのも、好きだと感じるのも先生だけなんだと再確認できた。
あぁ早く……会いたい
2日目に続く