放課後、先生との秘密
38話 清川先生side
清川先生side
ベッドで半分夢の中にいると、スマホの通知音で目が覚めた。
まだ眠いまま手を伸ばすと、画面には“牛沢”の名前。
目をこすりながら画面を開くと、そこには一言
『坂木が低体温症で倒れた。足も捻挫してる』
心臓が一瞬で止まるような衝撃。
体がベッドにくっついたまま、手が震える。
「……葵が、倒れた?」
眠気も一瞬で飛んでった。
考える前にはもう手がスマホを操作して
うっしーに電話をかけていた
何度かけても繋がらない。
何してんだようっしー!!
いやいや、一旦俺も落ち着こう。
あぁでもどうしよう…最悪の状況が脳裏に浮かぶ
足にヒビいってたら……
さすがに死んだとか…ないよな?
もう嫌、葵に会いたい…
どうしようもない焦燥感に体が支配される。
そのとき、スマホが震えた。
慌てて通話ボタンを押す。
「葵は!?どうなってんだよ!!」
数秒経って出てきたのは――予想していた声じゃなかった。
「も、もしもし?」
……え
耳が信じられない。
今の声……葵じゃん!!
「うわぁぁぁ葵っ!!」
思わず叫んでしまった。流石に嬉しい
本当に生きてて、声を聞けて……その瞬間、全身から力が抜けそうになった。
「先生っ?」
その声を聞いたら、今度は安心で泣きそうになる。
本当に……よかった。
「葵大丈夫か!?元気か!?しんどくない?ちゃんと体温めてる!?」
必死で畳みかける。
落ち着けって自分に言い聞かせても、心配の波がどうしても止まらなかった。
電話の向こうで少し笑う声が聞こえた。
「んふふ、大丈夫だよ。心配しすぎでしょ」
泣きそう……
安心で、力が抜けて、目頭が熱くなって視界が滲んだ。
「葵が倒れたって聞いて、俺……もうどうしていいかわかんなくて……気づいたらうっしーに電話かけてた」
それが正直な気持ちだった。
葵が居なくなってしまわないか怖くてたまらなくて。
この大好きな声が聞けただけで、心臓がようやく動き出した気がした。
「先生っ……会いたい」
その一言で胸が詰まる。
可愛すぎるだろこいつ!!
「俺も会いたい。ずっと会いたかった。できるなら今すぐ会いに行きてぇわ」
抑えきれずに本音が溢れた。
会って今すぐ葵を抱き締めたい。
もうやめてって言われても気にせず抱き潰したい
「じゃあ会いに来て?」
……反則だろ。そんなこと言うなよ。
余計会いたくてたまらなくなるじゃねぇか。
「今、ちょっと人来ててさ……家出たら何されっかわかんねぇの……ごめんな」
本当は今すぐ飛行機のチケット取って会いに行きたい。
それすらもララが来てるせいで会いにいけない。
不用意に動けば、葵にまで何をされるかわからないし。
「葵、今なにしてんの?ひとり?」
せめて、今から言うことは誰にも聞かれずに……そう願って聞いた。
「ん?ひとりでベッドの上だよ」
……安心と同時に、どうしようもなく愛しさが込み上げる。
「葵っ……」
「あのさ葵……好きだよ」
気づけば言葉が零れていた。
本当はこんなタイミングで言うべきじゃないと思う。
誰かに聞かれたら終わる。
けど、今この瞬間だけは伝えずにいられない。
俺の今、素直な気持ちだった。
もう教師とか今は知らない。
「ううっ...私も大好きっめっちゃくちゃ好きっ」
葵が泣きながら取り乱したように好きだと言ってくれて、胸が一気に熱くなった。
その言葉ひとつで、どんな不安も全部吹き飛ぶ。
俺葵がいねぇと生きてけねぇよ…
思わず笑ってしまうような、いつもしていた会話を久しぶり交わした
このくだらないやり取りが、どうしようもなく愛しい。
あぁ、本当に生きててくれてよかった。
俺はこの時寝室のドアが開いたことに気づかなかった。
突然後ろからララに抱きつかれた。
「ねぇーキヨくん誰と喋ってるのー?構ってよお!!」
わざとらしく甘ったるい声で。
葵にも聞こえてたらしくて、いつもより低い声で
「は、誰?女?」って言ってるしやばい!
とりあえずララを引き離した。
俺は予想もしてない事態で、慌てて電話を切ってしまった。誤解されてるまずい。
そんなことよりララだ
「お前なんでここにいんだよ」
「リビングいなかったからどっかで倒れてるのかと思ってさ!」
余計なお世話だわ
今葵と大切な時間過ごしてたのに……
「今の彼女?葵ちゃんだっけ?」
「別に…」
「好きな人ね〜んふふララ悪いことしちゃった?」
わざと挑発するように言いながら、
俺の腕に指先を這わせてくる。
「気持ち悪いやめろ」
反射的に手を振り払った。
さっきまで葵と話していた余韻が、一気に冷めていく。
胸の中に残っていたあたたかさが、
氷みたいに固まって崩れた。
「なにそんな怒ってんの?キヨくんらしくなーい」
「……お前さ、タイミングってもん考えろよ」
「え〜?だって“葵ちゃんと電話してる”なんて知らなかったもん」
ララがわざとらしく笑う。
わかってて言ってるのは明白だった。
「ほんっと邪魔ばっかしてくるな」
口から勝手に出た。
俺の声が、いつもより冷たかったのが自分でもわかる。
「なにそれ、冷た〜昔はそんな顔で睨まなかったくせに」
「昔の話すんな。もう関係ねぇだろ」
沈黙。
その空気が重くて、息が詰まる。
俺は額を押さえて大きく息を吐いた。
「ね、聞こえたけどキヨくん生徒のこと好きなの?」
「お前に関係ねぇだろ」
「いや、それ犯罪でしょ…生徒に好きとか…」
その一言で、空気が一瞬にして凍りついた。
わかってるよ…そんなことくらい。
だけど教師って立場を忘れてしまうくらい、あいつのこと好きなんだよ
「もう早く仕事行けって1人にさせてくれ」
「んふふ弱み握っちゃったぁ…」
ララが急に俺に近ずいてきて、押し倒してきた。
「何すんだよまじできもいって!!」
ララは抵抗しても無駄だ。みたいな顔をしてる
ララが俺の耳に近ずいて来て
「ね、その学校にバレたくなかったら私とヤってよ」
「うちのパパ色んな学校の校長と仲良いの知ってるよね?」
背筋がゾッとした。
体が無意識に強張る。
「お前……まさか、それで脅すつもりか?」
ララはゆっくりと俺の目を覗き込んで、笑った。
その笑顔が、昔よりずっと冷たい。
「生徒のこと好きで悪ぃかよ……お前そういう遊びやめろ」
「ふーん好きなんだへ〜」
「私とえっちしないとほんとに言っちゃうよ?」
気持ちが悪い
なんだよこいつ
なんでこんなやつ追い出さなかったんだよ…
ララが親のLINEを見せてきて、今すぐにも言えるぞという顔をしてる
タチ悪すぎだろこいつ
「今そんな気分じゃねぇんだわ」
「ふーんそっかぁ」
ララが突然俺から離れて部屋から出て行った
もうなんなんだよあいつ
何考えてっか全くわかんねぇ
「クソっ…」
少し俺のクソみたいな欲ががララに向いている。
もう2〜3年くらい誰ともしてねぇし…
はだけた格好で押し倒されたら嫌でもそんな気持ちなってしまう。
いやいやおかしいだろそんなの
葵に好きだって言ってんだからやめろよ。
気持ち悪い。
ていうか喉乾いた
周りに飲み物はどこにも見当たらない。
けど動く気にもならない。
「ララ〜水か綾鷹持ってきて!!」
どこかに行ったララに届くよう大声で言った
そのせいで余計喉が変な感じになる。
ミスった。
「はーい!」
「いやぁぁぁなにこれ!!!?」
ララの返事と共に叫び声が聞こえた。
冷蔵庫の中を見て驚いたんだろうな。
3分の2は綾鷹しか入ってねぇもん。
1、2分経ってララが綾鷹を持って戻ってきた。
「ありがと」
「相変わらず綾鷹中毒なんだね怖かったよ」
「綾鷹うめぇもん」
綾鷹を一気に飲み干した。
冷たさが喉を通るたび、張りつめていた神経が少しだけ緩んでいく。
けどなんか苦い。振らなかったから?まぁいいわ
「やっぱこれだわ」
ララはにやっと笑った。
「んは昔からそれ好きだもんね」
その笑い方に、ほんの一瞬だけ違和感を覚えた。
でも、もう疲れ切っていて考える気力もない。
ただ一つだけ、頭の奥が妙に熱くて、
心臓の鼓動がさっきより速くなっている気がした。
「なんか暑くね……?」
「ん〜どしたの?」
ララが近ずいて来て俺の肩に触れる
「んっはちょ触んなやめろ」
触れられたところが熱い。
「んふふ即効性ってすごいね」
ララは意味深な顔をして俺に小瓶を見せつけてきた。
「なんだよ…それ……」
「ん〜媚薬?んふふ可愛いキヨくん」
「…は?」
体の奥が焼けるように熱い。
こんな奴に欲情してる暇はないのに。
したくて、したくてたまらない。
「しんどいでしょ?ここ…もう勃ってるしさ、ララに任せて?」
そう言ってララが俺にキスをした。
逃げようにも体が言うことを聞かない。
この現実を受け入れたくなくて俺は目を閉じた。されるがままに。
「ね、キヨくんしたくてたまらない?」
ララが俺の耳元でそう言った。
それだけでムダに興奮してしまう。
「うるせぇ喋りかけんな」
こんなやつの声なんて聞きたくない。
だけど触って欲しいことに触れられなくて、気づいたら俺はララを押し倒しての服を脱がしていた。
理性はもうとっくどこかへ飛んでって行ってしまった。
何やってんだよ俺。欲なんかに負けんなよ…
「キヨくんっああっだめそこっ…いやっ」
「好きなくせに」
そんな汚い喘ぎ声ですら今は興奮材料にしかならない。
葵…ごめんほんとに
できるなら葵としたい。
今目の前にいるのが葵だったらいいのに。
葵だったらどんな風に気持ちよさそうな顔すんのかな?
どんな声だすんだろう?
わかんねぇけど絶対エロい。
付き合ったらめっちゃくちゃに気持ちよくさせたい。
なんなら毎日したい。
足も綺麗だし。あの可愛い顔で喘がれたら…たまんねぇ
葵とヤってのを想像しながら俺はララと繋がってしまった。
声を出させないようにキスしながらひたすら後ろから何度も打ち付ける。
「やっばっ…出そう…」
「んっっ…ねぇ中に…出していいよっ」
あぁ葵…ほんと好きだよ
「なんかあっても俺のせいにすんなよ」
俺は腰の動きを早めた。
目の前で無我夢中になって喘ぐララにムカつく。
俺の想像の中の葵はそんな馬鹿みたいに喘がねぇよ。
「んんっ…イクっ……」
葵……
余計葵に会いたくなった。
こんな欲に負けてしまう俺は知らないで欲しい。
酷い男でごめん…
今日のことは墓場まで持っていこう。
葵の声が聞きたい。
葵に触れたい。
昔はララやってて誰よりも相性いいなって思ってたのに全然気持ちよくなかった。
「ねぇキヨくん…好きっ」
ララが熱をもった目で俺に訴えてきた。
「だまれ」
昔は終わった後、好きだとか言ってた甘えてきたり、一緒に布団の中で抱き合いながら寝たりしてた。
けど、そんなピロートークさえララとは気持ち悪い。
薬使って俺に欲情させて。
なんなんだよこいつ。
「キヨくんってその、葵ちゃんだっけ?その子との事ほんとに大好きなんだね」
ララの言葉が、胸の奥を突き刺した。
「……なんだよ急に」
自分の声が震えていた。
思い出すたびに、吐き気がこみ上げる。
葵を想いながら、違う女を抱いていた自分。
まじで最低なことしてんな俺…
ララは笑っていた。
「その子のこと考えながらやってたでしょ?“葵”って、何回も呼んでたよ」
無意識だった…
息を吸うたびに胸が締めつけられる。
罪悪感が、喉の奥を焼くようだった。
「好きでわりぃかよ…ここまでしたんだから絶対お前の親に言うなよ」
「んふふ言わないよていうか冗漫だしその話は」
「……は?」
「ちょっとからかっただけじゃん!」
そもそもこんなやつを家からすぐ追い出さなかったのが間違いだった。
俺の少しの良心が仇となった。
「ねぇ、そんな顔しないでよ〜楽しかったじゃん?」
「……楽しいわけねぇだろ」
俺の声が、自分でも驚くほど低く響いた。
その瞬間、ララが少しだけ黙った。
部屋の中の静寂が、息苦しいほど重い。
「ねぇ、そんなにその子のこと好きなら、ちゃんと行動すれば?」
「……は?」
「電話のとき、声だけで分かった。その子のことになると、顔が全然違うんだもん」
ララのその一言に、息が詰まった。
嘲るようでも、どこか寂しそうな声だった。
「私といたときのキヨくんより、ずっと優しい顔してたよ」
何も言い返せなかった。
ララの言葉が胸の奥に刺さって抜けない。
俺は葵のことが好きだ。
それをどう言い訳しても、もう変わらない。
けど、葵の知らないところでこんなことをして、
何を守れるっていうんだ。
「……ひとりにさせて」
低く、呟いた。
「仕事行ってくるね…帰ってきていい?」
「勝手にしろよ…俺の部屋だけはもう入ってくんな」
「ありがとうね…さっきはごめんもうこんなことしないから……」
ララは服を拾い、静かに部屋を出て行った。
残された空気だけが、重たく沈んでいる。
綾鷹の空きペットボトルが転がる音が、妙に響いた。
「……最低だ、俺」
葵の笑顔を思い出した瞬間、胸の奥がギュッと痛んだ。
どうか――このことだけは知られたくない。
誰にも、葵にも。
それから2日間何事もなくララは帰っていった。
いつも香水の匂いが違うくて嫌気がさした。
絶対キャバクラかバーで働いて男取っかえ引っ変えしてんだろあいつ。
多分もう今後会うことは無い。
てか会いたくねぇしあんなやつ。
部屋に残ったあの甘ったるい香水の匂いが、まだ消えていなくて、
夜になるとそれがふっと漂ってくるたびに、胸の奥がざらついた。
「あぁもう…」
ベッドは買い換えた。
部屋にあった衣類も全部洗濯して部屋中掃除した
それでも消えない。
俺の罪悪感みたいに。
あの日から、まともに寝れてねぇ。
葵の笑顔を思い出すたび、喉の奥が詰まる。
罪悪感ってのは、時間が経つほど薄れるもんじゃないらしい。
むしろ、静かな時間が増えるほどに重く沈んでくる。
明日になればまた普通の生活に戻る。
黒板の前に立って、面白いこと言って
何事もなかったみたいに笑う。
それだけのことが、今は地獄みたいに思えた。
けど当分授業以外で葵には会えそうにない。
ごめんな。
これが俺の罰なんだ。
清川side____END
ベッドで半分夢の中にいると、スマホの通知音で目が覚めた。
まだ眠いまま手を伸ばすと、画面には“牛沢”の名前。
目をこすりながら画面を開くと、そこには一言
『坂木が低体温症で倒れた。足も捻挫してる』
心臓が一瞬で止まるような衝撃。
体がベッドにくっついたまま、手が震える。
「……葵が、倒れた?」
眠気も一瞬で飛んでった。
考える前にはもう手がスマホを操作して
うっしーに電話をかけていた
何度かけても繋がらない。
何してんだようっしー!!
いやいや、一旦俺も落ち着こう。
あぁでもどうしよう…最悪の状況が脳裏に浮かぶ
足にヒビいってたら……
さすがに死んだとか…ないよな?
もう嫌、葵に会いたい…
どうしようもない焦燥感に体が支配される。
そのとき、スマホが震えた。
慌てて通話ボタンを押す。
「葵は!?どうなってんだよ!!」
数秒経って出てきたのは――予想していた声じゃなかった。
「も、もしもし?」
……え
耳が信じられない。
今の声……葵じゃん!!
「うわぁぁぁ葵っ!!」
思わず叫んでしまった。流石に嬉しい
本当に生きてて、声を聞けて……その瞬間、全身から力が抜けそうになった。
「先生っ?」
その声を聞いたら、今度は安心で泣きそうになる。
本当に……よかった。
「葵大丈夫か!?元気か!?しんどくない?ちゃんと体温めてる!?」
必死で畳みかける。
落ち着けって自分に言い聞かせても、心配の波がどうしても止まらなかった。
電話の向こうで少し笑う声が聞こえた。
「んふふ、大丈夫だよ。心配しすぎでしょ」
泣きそう……
安心で、力が抜けて、目頭が熱くなって視界が滲んだ。
「葵が倒れたって聞いて、俺……もうどうしていいかわかんなくて……気づいたらうっしーに電話かけてた」
それが正直な気持ちだった。
葵が居なくなってしまわないか怖くてたまらなくて。
この大好きな声が聞けただけで、心臓がようやく動き出した気がした。
「先生っ……会いたい」
その一言で胸が詰まる。
可愛すぎるだろこいつ!!
「俺も会いたい。ずっと会いたかった。できるなら今すぐ会いに行きてぇわ」
抑えきれずに本音が溢れた。
会って今すぐ葵を抱き締めたい。
もうやめてって言われても気にせず抱き潰したい
「じゃあ会いに来て?」
……反則だろ。そんなこと言うなよ。
余計会いたくてたまらなくなるじゃねぇか。
「今、ちょっと人来ててさ……家出たら何されっかわかんねぇの……ごめんな」
本当は今すぐ飛行機のチケット取って会いに行きたい。
それすらもララが来てるせいで会いにいけない。
不用意に動けば、葵にまで何をされるかわからないし。
「葵、今なにしてんの?ひとり?」
せめて、今から言うことは誰にも聞かれずに……そう願って聞いた。
「ん?ひとりでベッドの上だよ」
……安心と同時に、どうしようもなく愛しさが込み上げる。
「葵っ……」
「あのさ葵……好きだよ」
気づけば言葉が零れていた。
本当はこんなタイミングで言うべきじゃないと思う。
誰かに聞かれたら終わる。
けど、今この瞬間だけは伝えずにいられない。
俺の今、素直な気持ちだった。
もう教師とか今は知らない。
「ううっ...私も大好きっめっちゃくちゃ好きっ」
葵が泣きながら取り乱したように好きだと言ってくれて、胸が一気に熱くなった。
その言葉ひとつで、どんな不安も全部吹き飛ぶ。
俺葵がいねぇと生きてけねぇよ…
思わず笑ってしまうような、いつもしていた会話を久しぶり交わした
このくだらないやり取りが、どうしようもなく愛しい。
あぁ、本当に生きててくれてよかった。
俺はこの時寝室のドアが開いたことに気づかなかった。
突然後ろからララに抱きつかれた。
「ねぇーキヨくん誰と喋ってるのー?構ってよお!!」
わざとらしく甘ったるい声で。
葵にも聞こえてたらしくて、いつもより低い声で
「は、誰?女?」って言ってるしやばい!
とりあえずララを引き離した。
俺は予想もしてない事態で、慌てて電話を切ってしまった。誤解されてるまずい。
そんなことよりララだ
「お前なんでここにいんだよ」
「リビングいなかったからどっかで倒れてるのかと思ってさ!」
余計なお世話だわ
今葵と大切な時間過ごしてたのに……
「今の彼女?葵ちゃんだっけ?」
「別に…」
「好きな人ね〜んふふララ悪いことしちゃった?」
わざと挑発するように言いながら、
俺の腕に指先を這わせてくる。
「気持ち悪いやめろ」
反射的に手を振り払った。
さっきまで葵と話していた余韻が、一気に冷めていく。
胸の中に残っていたあたたかさが、
氷みたいに固まって崩れた。
「なにそんな怒ってんの?キヨくんらしくなーい」
「……お前さ、タイミングってもん考えろよ」
「え〜?だって“葵ちゃんと電話してる”なんて知らなかったもん」
ララがわざとらしく笑う。
わかってて言ってるのは明白だった。
「ほんっと邪魔ばっかしてくるな」
口から勝手に出た。
俺の声が、いつもより冷たかったのが自分でもわかる。
「なにそれ、冷た〜昔はそんな顔で睨まなかったくせに」
「昔の話すんな。もう関係ねぇだろ」
沈黙。
その空気が重くて、息が詰まる。
俺は額を押さえて大きく息を吐いた。
「ね、聞こえたけどキヨくん生徒のこと好きなの?」
「お前に関係ねぇだろ」
「いや、それ犯罪でしょ…生徒に好きとか…」
その一言で、空気が一瞬にして凍りついた。
わかってるよ…そんなことくらい。
だけど教師って立場を忘れてしまうくらい、あいつのこと好きなんだよ
「もう早く仕事行けって1人にさせてくれ」
「んふふ弱み握っちゃったぁ…」
ララが急に俺に近ずいてきて、押し倒してきた。
「何すんだよまじできもいって!!」
ララは抵抗しても無駄だ。みたいな顔をしてる
ララが俺の耳に近ずいて来て
「ね、その学校にバレたくなかったら私とヤってよ」
「うちのパパ色んな学校の校長と仲良いの知ってるよね?」
背筋がゾッとした。
体が無意識に強張る。
「お前……まさか、それで脅すつもりか?」
ララはゆっくりと俺の目を覗き込んで、笑った。
その笑顔が、昔よりずっと冷たい。
「生徒のこと好きで悪ぃかよ……お前そういう遊びやめろ」
「ふーん好きなんだへ〜」
「私とえっちしないとほんとに言っちゃうよ?」
気持ちが悪い
なんだよこいつ
なんでこんなやつ追い出さなかったんだよ…
ララが親のLINEを見せてきて、今すぐにも言えるぞという顔をしてる
タチ悪すぎだろこいつ
「今そんな気分じゃねぇんだわ」
「ふーんそっかぁ」
ララが突然俺から離れて部屋から出て行った
もうなんなんだよあいつ
何考えてっか全くわかんねぇ
「クソっ…」
少し俺のクソみたいな欲ががララに向いている。
もう2〜3年くらい誰ともしてねぇし…
はだけた格好で押し倒されたら嫌でもそんな気持ちなってしまう。
いやいやおかしいだろそんなの
葵に好きだって言ってんだからやめろよ。
気持ち悪い。
ていうか喉乾いた
周りに飲み物はどこにも見当たらない。
けど動く気にもならない。
「ララ〜水か綾鷹持ってきて!!」
どこかに行ったララに届くよう大声で言った
そのせいで余計喉が変な感じになる。
ミスった。
「はーい!」
「いやぁぁぁなにこれ!!!?」
ララの返事と共に叫び声が聞こえた。
冷蔵庫の中を見て驚いたんだろうな。
3分の2は綾鷹しか入ってねぇもん。
1、2分経ってララが綾鷹を持って戻ってきた。
「ありがと」
「相変わらず綾鷹中毒なんだね怖かったよ」
「綾鷹うめぇもん」
綾鷹を一気に飲み干した。
冷たさが喉を通るたび、張りつめていた神経が少しだけ緩んでいく。
けどなんか苦い。振らなかったから?まぁいいわ
「やっぱこれだわ」
ララはにやっと笑った。
「んは昔からそれ好きだもんね」
その笑い方に、ほんの一瞬だけ違和感を覚えた。
でも、もう疲れ切っていて考える気力もない。
ただ一つだけ、頭の奥が妙に熱くて、
心臓の鼓動がさっきより速くなっている気がした。
「なんか暑くね……?」
「ん〜どしたの?」
ララが近ずいて来て俺の肩に触れる
「んっはちょ触んなやめろ」
触れられたところが熱い。
「んふふ即効性ってすごいね」
ララは意味深な顔をして俺に小瓶を見せつけてきた。
「なんだよ…それ……」
「ん〜媚薬?んふふ可愛いキヨくん」
「…は?」
体の奥が焼けるように熱い。
こんな奴に欲情してる暇はないのに。
したくて、したくてたまらない。
「しんどいでしょ?ここ…もう勃ってるしさ、ララに任せて?」
そう言ってララが俺にキスをした。
逃げようにも体が言うことを聞かない。
この現実を受け入れたくなくて俺は目を閉じた。されるがままに。
「ね、キヨくんしたくてたまらない?」
ララが俺の耳元でそう言った。
それだけでムダに興奮してしまう。
「うるせぇ喋りかけんな」
こんなやつの声なんて聞きたくない。
だけど触って欲しいことに触れられなくて、気づいたら俺はララを押し倒しての服を脱がしていた。
理性はもうとっくどこかへ飛んでって行ってしまった。
何やってんだよ俺。欲なんかに負けんなよ…
「キヨくんっああっだめそこっ…いやっ」
「好きなくせに」
そんな汚い喘ぎ声ですら今は興奮材料にしかならない。
葵…ごめんほんとに
できるなら葵としたい。
今目の前にいるのが葵だったらいいのに。
葵だったらどんな風に気持ちよさそうな顔すんのかな?
どんな声だすんだろう?
わかんねぇけど絶対エロい。
付き合ったらめっちゃくちゃに気持ちよくさせたい。
なんなら毎日したい。
足も綺麗だし。あの可愛い顔で喘がれたら…たまんねぇ
葵とヤってのを想像しながら俺はララと繋がってしまった。
声を出させないようにキスしながらひたすら後ろから何度も打ち付ける。
「やっばっ…出そう…」
「んっっ…ねぇ中に…出していいよっ」
あぁ葵…ほんと好きだよ
「なんかあっても俺のせいにすんなよ」
俺は腰の動きを早めた。
目の前で無我夢中になって喘ぐララにムカつく。
俺の想像の中の葵はそんな馬鹿みたいに喘がねぇよ。
「んんっ…イクっ……」
葵……
余計葵に会いたくなった。
こんな欲に負けてしまう俺は知らないで欲しい。
酷い男でごめん…
今日のことは墓場まで持っていこう。
葵の声が聞きたい。
葵に触れたい。
昔はララやってて誰よりも相性いいなって思ってたのに全然気持ちよくなかった。
「ねぇキヨくん…好きっ」
ララが熱をもった目で俺に訴えてきた。
「だまれ」
昔は終わった後、好きだとか言ってた甘えてきたり、一緒に布団の中で抱き合いながら寝たりしてた。
けど、そんなピロートークさえララとは気持ち悪い。
薬使って俺に欲情させて。
なんなんだよこいつ。
「キヨくんってその、葵ちゃんだっけ?その子との事ほんとに大好きなんだね」
ララの言葉が、胸の奥を突き刺した。
「……なんだよ急に」
自分の声が震えていた。
思い出すたびに、吐き気がこみ上げる。
葵を想いながら、違う女を抱いていた自分。
まじで最低なことしてんな俺…
ララは笑っていた。
「その子のこと考えながらやってたでしょ?“葵”って、何回も呼んでたよ」
無意識だった…
息を吸うたびに胸が締めつけられる。
罪悪感が、喉の奥を焼くようだった。
「好きでわりぃかよ…ここまでしたんだから絶対お前の親に言うなよ」
「んふふ言わないよていうか冗漫だしその話は」
「……は?」
「ちょっとからかっただけじゃん!」
そもそもこんなやつを家からすぐ追い出さなかったのが間違いだった。
俺の少しの良心が仇となった。
「ねぇ、そんな顔しないでよ〜楽しかったじゃん?」
「……楽しいわけねぇだろ」
俺の声が、自分でも驚くほど低く響いた。
その瞬間、ララが少しだけ黙った。
部屋の中の静寂が、息苦しいほど重い。
「ねぇ、そんなにその子のこと好きなら、ちゃんと行動すれば?」
「……は?」
「電話のとき、声だけで分かった。その子のことになると、顔が全然違うんだもん」
ララのその一言に、息が詰まった。
嘲るようでも、どこか寂しそうな声だった。
「私といたときのキヨくんより、ずっと優しい顔してたよ」
何も言い返せなかった。
ララの言葉が胸の奥に刺さって抜けない。
俺は葵のことが好きだ。
それをどう言い訳しても、もう変わらない。
けど、葵の知らないところでこんなことをして、
何を守れるっていうんだ。
「……ひとりにさせて」
低く、呟いた。
「仕事行ってくるね…帰ってきていい?」
「勝手にしろよ…俺の部屋だけはもう入ってくんな」
「ありがとうね…さっきはごめんもうこんなことしないから……」
ララは服を拾い、静かに部屋を出て行った。
残された空気だけが、重たく沈んでいる。
綾鷹の空きペットボトルが転がる音が、妙に響いた。
「……最低だ、俺」
葵の笑顔を思い出した瞬間、胸の奥がギュッと痛んだ。
どうか――このことだけは知られたくない。
誰にも、葵にも。
それから2日間何事もなくララは帰っていった。
いつも香水の匂いが違うくて嫌気がさした。
絶対キャバクラかバーで働いて男取っかえ引っ変えしてんだろあいつ。
多分もう今後会うことは無い。
てか会いたくねぇしあんなやつ。
部屋に残ったあの甘ったるい香水の匂いが、まだ消えていなくて、
夜になるとそれがふっと漂ってくるたびに、胸の奥がざらついた。
「あぁもう…」
ベッドは買い換えた。
部屋にあった衣類も全部洗濯して部屋中掃除した
それでも消えない。
俺の罪悪感みたいに。
あの日から、まともに寝れてねぇ。
葵の笑顔を思い出すたび、喉の奥が詰まる。
罪悪感ってのは、時間が経つほど薄れるもんじゃないらしい。
むしろ、静かな時間が増えるほどに重く沈んでくる。
明日になればまた普通の生活に戻る。
黒板の前に立って、面白いこと言って
何事もなかったみたいに笑う。
それだけのことが、今は地獄みたいに思えた。
けど当分授業以外で葵には会えそうにない。
ごめんな。
これが俺の罰なんだ。
清川side____END