放課後、先生との秘密
55話
リビングに着くとパパがゲームをしていた。
ガッチパパ
「葵おかえり〜」
葵
「……ただいま」
ガッチパパ
「葵!?どしたの目真っ赤にして」
不意に突かれたせいで余計に涙が出そうになるのをグッと堪えた。
爪が皮膚に食い込んで痛い。
でもパパには心配かけたくなくて平然を装うとしたけど、そんなことできるわけなくて。
葵
「……パバっ」
こういう時どうしたらいいんだっけ。
なんて言えばいいんだっけ。
「助けて?」
「悲しい?」
「ごめんなさい?」
わかんないや。
分からないからなのかパバの顔を見たらどこからともなく涙が溢れ出す。
パパは速攻でコントローラーを置いて、弾かれたようにソファから立ち上がった。
ガッチパパ
「おいおいおい、本当にどうした!? 誰に何されたの!?」
パパがあたしの肩を掴んで覗き込んできた。
見たこともないくらい真剣で、焦った顔をしてる。
葵
「……うっ……うあああんっ……!!」
言葉なんて一つも出てこない。
感情がぐちゃぐちゃになりすぎて、何一つ整理できないまま、あたしはパパの服に顔をうずめて子供みたいに声を上げて泣きじゃくった。
ガッチパパ
「……よしよし。分かった、何も言わなくていいから、な?」
パパは事情を問い詰めることもせず、ただ大きな手であたしの背中をポンポンと優しく叩いてくれた。
その温もりに触れると、余計に涙が止まらない。
ガッチパパ
「…待て…キヨか?」
パパが疑いかけて聞いてきた。
人を殺すような目をしている。
ガッチパパ
「あいつと何かあったのか?」
葵
「……っ、ちがっ……」
首を必死に横に振ることしかできなかった。
「あたしが浮気紛いのことをして、怒らせてしまった」なんてパパには言えない。
ガッチパパ
「……ったく、あいつ何やってんだよ…」
葵
「だから……違うって!!」
パパ
「違うようには見えないけどね」
「…ごめんだけどキヨに今から連絡するから」
そんなことしたらダメ!
これ以上先生を傷つけちゃダメだ!!
葵
「ねぇやだ…お願いパパやめてっ!!」
あたしはなりふり構わずパパの手首に飛びついて、スマホを奪い取る勢いで必死にすがりついた。
葵
「電話しないで……っ! お願いだから、先生に連絡なんて絶対しないでっ……!」
ボロボロと溢れ出る涙で視界がぐちゃぐちゃになりながら、縋り付くようにそう言った。
パパ
「…あおを傷つけたら許さないって約束したんだよ。破ったのはあいつの方だ」
「それに葵はあと2週間で入試でしょ?恋愛に悩んでる暇ないよね?…別れなさい」
葵
「そんなっ……!!!パパなんかっ……」
「嫌い」なんて言葉、大好きなパパには言えない。
こんなに怒っているパパを見た事がなかった。
それくらい私はパパに大切にされていてるってことだよね。
だから余計パパは先生に怒ってる。
だから今は大人の言うことは聞いておくべきなのかな。
だけど。
だけどさ。
葵
「……別れたく……ないの………」
こうなったのが全て先生のせいじゃないから。
全て私のせいで、被害者ぶってるだけだから。
パパ
「大切な娘がこんなことになってるのに、彼氏は傷つけたうえに放っておいて…俺は許せないけどね」
淡々とパパがスマホを手に取った。
全てがスローに見えて、とんでもない頭痛が襲ってくる。
別れたくないのに。
まだずっと一緒にいたいのに。
まだ先生と作りたい思い出いっぱいあるのに。
指がタップされるたび、世界から光が消えていくみたいだった。
ていうか、なんでパパにあたしの人生を左右されなきゃなんな無いわけ。
葵
「……なんて……くせに………っ」
パパ
「なんて?」
葵
「パパなんてたまにしか帰ってこないくせに、親ズラすんなよ!!」
静まり返ったリビングに、あたしの叫びが爆音みたいに響き渡った。
今まで一回も言ったことがなかった。
言っちゃいけないって分かってたはずの言葉。
仕事で忙しくて、滅多に家に帰ってこないパパ。
……あたしが一人で寂しかった夜も、泣いていた日も、全部知らなかったくせに。
あたしの核心を突いた暴言に、パパの動きがピタリと止まった。
ガッチパパ
「……親ズラ、か……」
ぽつりと漏らしたパパの声は、怒鳴るわけでもなく、ただ静かにリビングに落ちた。
ガッチパパ
「……そりゃそうだよな。仕事ばっかで家にいなくて、寂しい思いさせて……たまに帰ってきたと思ったら、親風吹かしてもキモイよな。ごめんな、葵」
葵
「……っ、パパ……」
パパは自虐的にふっと笑うと、握りしめていたスマホをゆっくりとテーブルの上に置いた。
画面には、先生とのLINEの画面が開かれたまま。
葵
「ご、ごめんなさい…言いすぎた」
パパはあたしの前にしゃがみ込むと、目線を合わせてあたしの頭にそっと手を置いた。
ガッチパパ
「でも……葵が目真っ赤にしてボロボロになって帰ってきて……父親として、放っておけるわけないんだよ……分かってよ」
パパはあたしを抱き締めた。
耳元でパパが鼻をすする音がきこえる。
あたしがパパを泣かせてしまった。
傷つけてしまった。
よく考えれば、仕事でどんなに疲れていても、たまに帰ってきた時はあたしとこーすけを一番に喜ばせようと笑ってくれていたパパ。
そんなパパに「親ズラすんな」なんて絶対言っちゃいけないのに。
あたし最低だ。
葵
「……っ、う……うあああああんっ……!! パパ、ごめんなさい……っ! ごめんなさい…!!」
酷いことを言ってしまった後悔が今になってのしかかってくる。
ガッチパパ
「……いいんだよ。俺こそ……葵の気持ちも聞かないで、勝手に判断して頭ごなしに怒ってごめんな」
パパは大きな手であたしの頭を何度も撫でながら、あたしをぎゅっと抱きしめてくれる。
葵
「……ううっ」
ガッチパパ
「で、結局どっちが悪いの?」
葵
「……っ、あたし…っ」
ガッチパパ
「……ふっ、なんだそりゃ」
パパはクッと息を漏らして、少しだけ困ったように苦笑いした。
葵
「あたしが紛らわしいことして、先生を怒らせちゃって……さ」
パパ
「んふふほんと葵は俺に似てるなぁ」
「昔俺もママに沢山怒らせちゃったことあったなぁ……」
パパがふっと優しく笑った。
葵
「……え、パパもなの?」
ガッチパパ
「そうだよ。若気の至りってやつか知らないけど、ちょっとした気の緩みでママをめちゃくちゃ怒らせてさ。もう二度と口利いてくんねぇんじゃないかってくらい冷たくされて、本気で冷や汗かいたっけなぁ」
パパは遠い目をしながら、ちょっと照れくさそうに頭をかいた。
パパにもそんな過去があったんだ。
ガッチパパ
「だからさ、失敗しない人間なんていないよ。大事なのは、やっちまった後にどう向き合うかだよ」
葵「そうだよね…」
パパ
「キヨとは明日には話せる状態なの?」
葵
「む、無理かも」
パパ
「浮気でもしたの?」
ギクッッ。
浮気なんてしてないのに背筋に冷や汗をかく感覚。
パパは驚いたようにきょとんとした顔をした後、すぐに「なんだよ、図星か?」と言いたげに眉をひそめた。
ガッチパパ
「……おいおい、まさか本当に浮気したの?」
葵
「してない! 浮気なんて絶対してないからっ!!」
必死になって否定したものの、声は裏返るし、手のひらは冷や汗でびっしょり濡れている。
レトくんに抱きつかれたことは「浮気」じゃない……かもしれないけど、先生があそこまで狂う原因を作ったのは間違いなくあの瞬間だ。
パパにそんなの知られたら、今度こそ本気で殺されてしまう。
ガッチパパ
「ははっ、なんだその分かりやすい反応。顔真っ青だよ」
パパはからかうように笑いながら、頭をぽんと軽く叩いた。
葵
「違うってほんとに!!」
パパ
「あははわかったわかった。まぁとりあえず明日はキヨの気に障ることはしちゃダメだよ?」
葵
「…そうだね」
パパには笑ってみせたものの、返事をする声が自分でもびっくりするくらい小さく震えた。
明日は、まず顔を見て話せるかどうかなんて分からない。
もう別れようって言われるかもしれない。
そんなことを考えていたらまた涙が出そうになる。
ガッチパパ
「ほら、またそんな暗い顔して。……大丈夫だから、ちゃんと行ってこい」
パパにあたしの怯えが見透かされたみたいで、ハッとして頷いた。
葵
「……うん頑張る…とりあえずお風呂入って寝るね」
パパ
「ご飯は??」
葵
「明日食べる」
パパ
「倒れちゃダメだよ?…おやすみ葵」
葵
「おやすみ」
自分の部屋に入り、ドアを閉めて鍵をかける。
静まり返った暗闇のベッドに倒れ込むと、ギュッと目を閉じた。
お願い……お願いだから、先生……あたしを捨てないで……
明日の朝、どんな顔をして先生の前に立てばいいのか分からないまま、あたしは眠れない夜を過ごした――
先生side______
ガッチパパ
「葵おかえり〜」
葵
「……ただいま」
ガッチパパ
「葵!?どしたの目真っ赤にして」
不意に突かれたせいで余計に涙が出そうになるのをグッと堪えた。
爪が皮膚に食い込んで痛い。
でもパパには心配かけたくなくて平然を装うとしたけど、そんなことできるわけなくて。
葵
「……パバっ」
こういう時どうしたらいいんだっけ。
なんて言えばいいんだっけ。
「助けて?」
「悲しい?」
「ごめんなさい?」
わかんないや。
分からないからなのかパバの顔を見たらどこからともなく涙が溢れ出す。
パパは速攻でコントローラーを置いて、弾かれたようにソファから立ち上がった。
ガッチパパ
「おいおいおい、本当にどうした!? 誰に何されたの!?」
パパがあたしの肩を掴んで覗き込んできた。
見たこともないくらい真剣で、焦った顔をしてる。
葵
「……うっ……うあああんっ……!!」
言葉なんて一つも出てこない。
感情がぐちゃぐちゃになりすぎて、何一つ整理できないまま、あたしはパパの服に顔をうずめて子供みたいに声を上げて泣きじゃくった。
ガッチパパ
「……よしよし。分かった、何も言わなくていいから、な?」
パパは事情を問い詰めることもせず、ただ大きな手であたしの背中をポンポンと優しく叩いてくれた。
その温もりに触れると、余計に涙が止まらない。
ガッチパパ
「…待て…キヨか?」
パパが疑いかけて聞いてきた。
人を殺すような目をしている。
ガッチパパ
「あいつと何かあったのか?」
葵
「……っ、ちがっ……」
首を必死に横に振ることしかできなかった。
「あたしが浮気紛いのことをして、怒らせてしまった」なんてパパには言えない。
ガッチパパ
「……ったく、あいつ何やってんだよ…」
葵
「だから……違うって!!」
パパ
「違うようには見えないけどね」
「…ごめんだけどキヨに今から連絡するから」
そんなことしたらダメ!
これ以上先生を傷つけちゃダメだ!!
葵
「ねぇやだ…お願いパパやめてっ!!」
あたしはなりふり構わずパパの手首に飛びついて、スマホを奪い取る勢いで必死にすがりついた。
葵
「電話しないで……っ! お願いだから、先生に連絡なんて絶対しないでっ……!」
ボロボロと溢れ出る涙で視界がぐちゃぐちゃになりながら、縋り付くようにそう言った。
パパ
「…あおを傷つけたら許さないって約束したんだよ。破ったのはあいつの方だ」
「それに葵はあと2週間で入試でしょ?恋愛に悩んでる暇ないよね?…別れなさい」
葵
「そんなっ……!!!パパなんかっ……」
「嫌い」なんて言葉、大好きなパパには言えない。
こんなに怒っているパパを見た事がなかった。
それくらい私はパパに大切にされていてるってことだよね。
だから余計パパは先生に怒ってる。
だから今は大人の言うことは聞いておくべきなのかな。
だけど。
だけどさ。
葵
「……別れたく……ないの………」
こうなったのが全て先生のせいじゃないから。
全て私のせいで、被害者ぶってるだけだから。
パパ
「大切な娘がこんなことになってるのに、彼氏は傷つけたうえに放っておいて…俺は許せないけどね」
淡々とパパがスマホを手に取った。
全てがスローに見えて、とんでもない頭痛が襲ってくる。
別れたくないのに。
まだずっと一緒にいたいのに。
まだ先生と作りたい思い出いっぱいあるのに。
指がタップされるたび、世界から光が消えていくみたいだった。
ていうか、なんでパパにあたしの人生を左右されなきゃなんな無いわけ。
葵
「……なんて……くせに………っ」
パパ
「なんて?」
葵
「パパなんてたまにしか帰ってこないくせに、親ズラすんなよ!!」
静まり返ったリビングに、あたしの叫びが爆音みたいに響き渡った。
今まで一回も言ったことがなかった。
言っちゃいけないって分かってたはずの言葉。
仕事で忙しくて、滅多に家に帰ってこないパパ。
……あたしが一人で寂しかった夜も、泣いていた日も、全部知らなかったくせに。
あたしの核心を突いた暴言に、パパの動きがピタリと止まった。
ガッチパパ
「……親ズラ、か……」
ぽつりと漏らしたパパの声は、怒鳴るわけでもなく、ただ静かにリビングに落ちた。
ガッチパパ
「……そりゃそうだよな。仕事ばっかで家にいなくて、寂しい思いさせて……たまに帰ってきたと思ったら、親風吹かしてもキモイよな。ごめんな、葵」
葵
「……っ、パパ……」
パパは自虐的にふっと笑うと、握りしめていたスマホをゆっくりとテーブルの上に置いた。
画面には、先生とのLINEの画面が開かれたまま。
葵
「ご、ごめんなさい…言いすぎた」
パパはあたしの前にしゃがみ込むと、目線を合わせてあたしの頭にそっと手を置いた。
ガッチパパ
「でも……葵が目真っ赤にしてボロボロになって帰ってきて……父親として、放っておけるわけないんだよ……分かってよ」
パパはあたしを抱き締めた。
耳元でパパが鼻をすする音がきこえる。
あたしがパパを泣かせてしまった。
傷つけてしまった。
よく考えれば、仕事でどんなに疲れていても、たまに帰ってきた時はあたしとこーすけを一番に喜ばせようと笑ってくれていたパパ。
そんなパパに「親ズラすんな」なんて絶対言っちゃいけないのに。
あたし最低だ。
葵
「……っ、う……うあああああんっ……!! パパ、ごめんなさい……っ! ごめんなさい…!!」
酷いことを言ってしまった後悔が今になってのしかかってくる。
ガッチパパ
「……いいんだよ。俺こそ……葵の気持ちも聞かないで、勝手に判断して頭ごなしに怒ってごめんな」
パパは大きな手であたしの頭を何度も撫でながら、あたしをぎゅっと抱きしめてくれる。
葵
「……ううっ」
ガッチパパ
「で、結局どっちが悪いの?」
葵
「……っ、あたし…っ」
ガッチパパ
「……ふっ、なんだそりゃ」
パパはクッと息を漏らして、少しだけ困ったように苦笑いした。
葵
「あたしが紛らわしいことして、先生を怒らせちゃって……さ」
パパ
「んふふほんと葵は俺に似てるなぁ」
「昔俺もママに沢山怒らせちゃったことあったなぁ……」
パパがふっと優しく笑った。
葵
「……え、パパもなの?」
ガッチパパ
「そうだよ。若気の至りってやつか知らないけど、ちょっとした気の緩みでママをめちゃくちゃ怒らせてさ。もう二度と口利いてくんねぇんじゃないかってくらい冷たくされて、本気で冷や汗かいたっけなぁ」
パパは遠い目をしながら、ちょっと照れくさそうに頭をかいた。
パパにもそんな過去があったんだ。
ガッチパパ
「だからさ、失敗しない人間なんていないよ。大事なのは、やっちまった後にどう向き合うかだよ」
葵「そうだよね…」
パパ
「キヨとは明日には話せる状態なの?」
葵
「む、無理かも」
パパ
「浮気でもしたの?」
ギクッッ。
浮気なんてしてないのに背筋に冷や汗をかく感覚。
パパは驚いたようにきょとんとした顔をした後、すぐに「なんだよ、図星か?」と言いたげに眉をひそめた。
ガッチパパ
「……おいおい、まさか本当に浮気したの?」
葵
「してない! 浮気なんて絶対してないからっ!!」
必死になって否定したものの、声は裏返るし、手のひらは冷や汗でびっしょり濡れている。
レトくんに抱きつかれたことは「浮気」じゃない……かもしれないけど、先生があそこまで狂う原因を作ったのは間違いなくあの瞬間だ。
パパにそんなの知られたら、今度こそ本気で殺されてしまう。
ガッチパパ
「ははっ、なんだその分かりやすい反応。顔真っ青だよ」
パパはからかうように笑いながら、頭をぽんと軽く叩いた。
葵
「違うってほんとに!!」
パパ
「あははわかったわかった。まぁとりあえず明日はキヨの気に障ることはしちゃダメだよ?」
葵
「…そうだね」
パパには笑ってみせたものの、返事をする声が自分でもびっくりするくらい小さく震えた。
明日は、まず顔を見て話せるかどうかなんて分からない。
もう別れようって言われるかもしれない。
そんなことを考えていたらまた涙が出そうになる。
ガッチパパ
「ほら、またそんな暗い顔して。……大丈夫だから、ちゃんと行ってこい」
パパにあたしの怯えが見透かされたみたいで、ハッとして頷いた。
葵
「……うん頑張る…とりあえずお風呂入って寝るね」
パパ
「ご飯は??」
葵
「明日食べる」
パパ
「倒れちゃダメだよ?…おやすみ葵」
葵
「おやすみ」
自分の部屋に入り、ドアを閉めて鍵をかける。
静まり返った暗闇のベッドに倒れ込むと、ギュッと目を閉じた。
お願い……お願いだから、先生……あたしを捨てないで……
明日の朝、どんな顔をして先生の前に立てばいいのか分からないまま、あたしは眠れない夜を過ごした――
先生side______