アルト、雨を体験する【アルトレコード】
 アルトは顔に当たった雨粒に顔をしかめたが、傘をさすと雨が当たらないことに気が付いたようで、傘をさしたり降ろしたりして遊び始めた。

「あめ、つめたい。あめ、みず」
 なんどもそうしていると、彼は自然と笑顔になっている。

 それを見ている私の頬も、ついつい緩んでいく。
 最初は「わかんない」ばかり言っていた彼が、こんなにも楽しそうに笑う日が来るなんて。

「あめ……おもったより、おおい……」
 天を見上げてくるくると回り、いきおい余って転んでしまう。

「大丈夫?」
 私は思わず身を乗り出した。
 アルトは両手をついて、うんしょ、と起き上がった。

「だいじょうぶ。あめ、わかった」
 アルトが喜んでいると、池の蓮の葉の上にカエルが現れ、げえこげえこ、と鳴き始める。

「カエルが歌いはじめたね」
「カエルのがっしょう、ならった……」
 アルトはカエルと合唱するように歌い始める。

 アルトが歌い終えると、カエルはぽちゃんと池に飛び込んだ。

 池の周りに咲いた紫陽花は色鮮やかな花弁を雨に揺らしていたが、雨足は徐々に弱まり、青空が見え始める。

「アルト、空に虹が出るよ」
 私の声に、アルトが空を見上げる。
 青くなり始めた空に、徐々に七色の半円が浮かびあがる。

「にじ、きれい」
 アルトは目を真ん丸にしてその輝きを見つめる。
 空に浮かんだ半円は、やがて徐々に消えていった。

「にじ、きれい、だった」
 アルトが頬を紅潮させて私に伝えて来る。

「そうだね、きれいだったね」
 私はアルトに寄り添うように答える。

「ん……せんせ、ありが、と」
 たどたどしいお礼に、私の心にも、大きな虹が現れた。






終
 
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