その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
妻である美和子の本心
麻里子が会社を辞めた後、初めて迎えた週末。
彼女と貴之は、美和子と真樹の自宅を訪れていた。
リビングのソファに腰を下ろすと、真樹がグラスを片手に言った。
「そうか。ついに、一緒に暮らし始めたんだな」
少し照れたように微笑みながら、麻里子はうなずく。
「はい。まだまだ、お互いに新しい一面の発見ばかりですが……きっと貴之さんも、同じ気持ちだと思います」
真樹は口元に笑みを浮かべた。
「なるほど。いいじゃないか、新しい毎日ってやつも」
真樹がふいに口を開いた。
「で、二人はいつ結婚するんだ?」
その場に、ぴたりと静寂が落ちた。
貴之と麻里子は、同時にぎょっとして顔を見合わせる。
空気を察した美和子が、すかさず口を挟んだ。
「ちょっと、真樹さん。それはまだ早すぎるわよ」
「え、そうか? でももう同棲してるんだろ?」
真樹は悪びれる様子もなく笑っている。
「それとこれとは別なの」
美和子が優しくたしなめながら、麻里子に目を向けた。
「今は、新しい暮らしを楽しんでるところでしょう?」
麻里子は小さく息を吐き、ふっと笑った。
「はい。今は目の前の時間を、ひとつずつ大事にしていきたいなって思ってます」
貴之もそれにうなずく。
「結婚がすべてじゃないって、最近ようやくわかってきた気がするよ」
その後、真樹は貴之に見せたいコレクションがあると言い、二人は書斎へ向かった。
部屋に入ると、真樹はふと貴之を見据え、問いかける。
「お前、本当にいいのか? あんなことを言って」
貴之は眉をひそめ、答える。
「――あんなことって?」
真樹は軽く笑いながらも、真剣なまなざしで続けた。
「結婚がすべてじゃない、なんて言ったけど、お前の本心じゃないだろ? お前、婚姻届まで用意してるんだろう?」
貴之は視線を落とし、一瞬の沈黙のあと、静かに言った。
「……ああ、確かに用意してる。けど、麻里子にプレッシャーをかけたくないんだ。今すぐにでも籍を入れたい気持ちは山々だが、彼女の意志を一番に尊重したい」
真樹はその言葉を受け止め、深くうなずいた。
麻里子と美和子はソファに並んで腰かけ、グラスを傾けていた。
美和子が穏やかに微笑みながら言う。
「麻里ちゃん、本当に幸せそうね」
麻里子は少し照れたように微笑み返した。
「はい……幸せです」
少し間を置いて、美和子がそっと尋ねる。
「さっきの話だけど、結婚のことはどう思ってる? したくないの?」
麻里子は目を伏せながら、正直に答えた。
「したいです。もしするなら、貴之さんがいい。でも、今の気持ちはまだ五分五分くらいで……もう少し時間をかけたいんです」
美和子は少し間を置き、真剣な表情で麻里子を見つめた。
「そうね、焦らなくていいのよ、とは言いたいところだけど……私の本心を言ってもいいかしら?」
麻里子は驚いたように顔を上げ、静かに頷いた。
「はい。お願いします」
彼女と貴之は、美和子と真樹の自宅を訪れていた。
リビングのソファに腰を下ろすと、真樹がグラスを片手に言った。
「そうか。ついに、一緒に暮らし始めたんだな」
少し照れたように微笑みながら、麻里子はうなずく。
「はい。まだまだ、お互いに新しい一面の発見ばかりですが……きっと貴之さんも、同じ気持ちだと思います」
真樹は口元に笑みを浮かべた。
「なるほど。いいじゃないか、新しい毎日ってやつも」
真樹がふいに口を開いた。
「で、二人はいつ結婚するんだ?」
その場に、ぴたりと静寂が落ちた。
貴之と麻里子は、同時にぎょっとして顔を見合わせる。
空気を察した美和子が、すかさず口を挟んだ。
「ちょっと、真樹さん。それはまだ早すぎるわよ」
「え、そうか? でももう同棲してるんだろ?」
真樹は悪びれる様子もなく笑っている。
「それとこれとは別なの」
美和子が優しくたしなめながら、麻里子に目を向けた。
「今は、新しい暮らしを楽しんでるところでしょう?」
麻里子は小さく息を吐き、ふっと笑った。
「はい。今は目の前の時間を、ひとつずつ大事にしていきたいなって思ってます」
貴之もそれにうなずく。
「結婚がすべてじゃないって、最近ようやくわかってきた気がするよ」
その後、真樹は貴之に見せたいコレクションがあると言い、二人は書斎へ向かった。
部屋に入ると、真樹はふと貴之を見据え、問いかける。
「お前、本当にいいのか? あんなことを言って」
貴之は眉をひそめ、答える。
「――あんなことって?」
真樹は軽く笑いながらも、真剣なまなざしで続けた。
「結婚がすべてじゃない、なんて言ったけど、お前の本心じゃないだろ? お前、婚姻届まで用意してるんだろう?」
貴之は視線を落とし、一瞬の沈黙のあと、静かに言った。
「……ああ、確かに用意してる。けど、麻里子にプレッシャーをかけたくないんだ。今すぐにでも籍を入れたい気持ちは山々だが、彼女の意志を一番に尊重したい」
真樹はその言葉を受け止め、深くうなずいた。
麻里子と美和子はソファに並んで腰かけ、グラスを傾けていた。
美和子が穏やかに微笑みながら言う。
「麻里ちゃん、本当に幸せそうね」
麻里子は少し照れたように微笑み返した。
「はい……幸せです」
少し間を置いて、美和子がそっと尋ねる。
「さっきの話だけど、結婚のことはどう思ってる? したくないの?」
麻里子は目を伏せながら、正直に答えた。
「したいです。もしするなら、貴之さんがいい。でも、今の気持ちはまだ五分五分くらいで……もう少し時間をかけたいんです」
美和子は少し間を置き、真剣な表情で麻里子を見つめた。
「そうね、焦らなくていいのよ、とは言いたいところだけど……私の本心を言ってもいいかしら?」
麻里子は驚いたように顔を上げ、静かに頷いた。
「はい。お願いします」