その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
貴之は一人、ベッドの上で悶絶していた。

(……あのラノベさえなければ……! 今夜は麻里子との、最高の夜だったはずなのに!)

勢いよく枕を叩きつけ、寝返りを打つ。

「ちくしょう……全然、眠れない……!」



○○軒で餃子とチャーハンを堪能したあと、二人は麻里子の部屋へ戻っていた。

リビングに入るなり、貴之は抑えていた想いを爆発させたかのように、麻里子を背後から抱きしめた。彼女の身体をなぞる指先は、まるで他の誰かに触れられた痕跡を上書きするかのように、どこまでも情熱的だった。

顎をそっと掴み、彼女の顔をこちらへ向ける。

そのまま、いら立ちをぶつけるように—いや、それ以上に、彼女を渇望する想いのすべてを、キスに込めて貪った。

「ま、待って……」

息を切らせた麻里子の声が、耳元でか細く響いた。

それでも貴之は手を止めない。

「お願い、待って……」

潤んだ瞳で見上げてくる麻里子。その真剣な眼差しに、ようやく貴之は指先の動きを止めた。

「……嫌だったか?」

そう問いかけると、麻里子は首を振った。

「そうじゃなくて……今日は一日中、外を歩き回って汗もかいたし、夕ご飯の匂いもついてるし……ニンニクも……すごく匂うの……。だから、シャワー浴びたいの」

「……あ、そっか。ごめん、俺、強引すぎたな」

照れたようにうつむく麻里子が、少しだけ上目遣いで言った。

「……でも、貴之さんが強引なのは……嫌じゃないの」

その言葉を残し、頬を染めながら浴室へ駆け込んでいった。

(……がっつきすぎたよな、俺)

深く息をついて、貴之は立ち上がった。

「俺も、一度帰ってシャワー浴びてくるか……」

そう伝えようと浴室へ向かった瞬間、わずかに開いた扉の隙間から、ふいに目を奪われた。

麻里子が――着替えている。

貴之は慌てて目を逸らそうとした。けれど、次の瞬間、完全に動きを失っていた。

カットソーを脱いだ麻里子の背中は、白く、華奢で、思わず息を呑むほど美しかった。身につけていたのは、淡い色合いの、上品で繊細なレースのブラ。数日前とはまた違う、女性らしさと成熟を感じさせるランジェリーだった。

そして、麻里子はジーンズにも手をかける。

ゆっくりと、下着のラインが浮かび上がっていく。

彼女の姿を目にして、貴之は思わず、口元を手で押さえた。

(……まずい……これは、やばい……)

まるで見てはいけないものを見てしまったような罪悪感と、同時に、どうしようもない愛しさと欲情が、胸の奥からせり上がってくる。

心のどこかで—彼女が「見られている」と知っていたら、どんな顔をしただろう……そんな想像すらしてしまう自分が、恐ろしかった。

(俺、どこまで……麻里子に、夢中なんだ)

静かに、扉を閉めてその場を離れると、貴之は深く深く息を吐いた。
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