その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
シャワーも浴びて、スッキリした頭でベッドに倒れ込みながら、貴之はスマホをチェックした。
麻里子からの返信が届いている。
本当は……もう少しだけ、一緒にいたかったです。
「…………」
一瞬、脳がフリーズした。
(……え?)
スクロールしてもう一度読む。
本当は……もう少しだけ、一緒にいたかったです。
(おい……これ……)
背筋がピンと伸びた。
「……え、俺……帰らない方がよかったやつ!?」
立ち上がって、部屋をぐるぐる歩き出す。
「え、なに、まさかの……誘われてた? そういう感じだった!? いや、でも“ニンニクのにおいが……”とか言ってたし……あれはやっぱり遠回しに帰れってサインじゃなかったのか!?」
思わず頭を抱える。
「くそっ、女心むずかしすぎる!!」
そして、目に飛び込んでくるもう一文。
あたたかい気持ちで眠れそうです。
「……どっちの意味なんだ、それは」
真剣な顔でスマホを見つめ、考える。
「“あたたかい気持ち”って、俺の行動が嬉しかったのか……それとも、“ああ、やっと帰ってくれた〜”って意味の安堵だったのか……!!」
(“もう少しだけ”っていう言葉が、俺への気遣いなのか、それとも……もしかして、本気で……?)
がばっ!とスマホを持ったまま、再びソファに倒れ込む。
「……どうすれば正解だったんだ……!」
—今なら戻れる。
いや、でも、戻ったら戻ったで“え、まだ来るの?重くない?”って思われる可能性もある。
いや、でも、女心はタイミングが命じゃないのか!?
でもでも! 俺、すでにドア閉めた!風呂も入った!着替えもした!いま行ったら “必死”感出ないか!?
「はああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
貴之、またもソファに沈みこむ。
(……なんで俺は、こんなに麻里子に振り回されてんだ……)
それでも。
—もう少しだけ一緒にいたかった。
その一言だけが、胸に甘く、ちょっとだけ痛く残っていた。
何度目かのため息をついたあと、貴之はついに頭を抱えた。
(……もうダメだ。考えれば考えるほど、麻里子の言葉の真意がわからん)
「“もう少しだけ一緒にいたかった”って……あれは何の罠だ?」
真面目な顔で、独り言をつぶやく。
「俺が帰ったのを惜しんでくれた……のか? それとも、あれか? 女の“なんとなく言ってみただけ”ってやつか?」
バカ正直に真に受けて帰ってきた自分を省みて、じりじりと後悔が込み上げる。
けれど、どこかで感じていた。
麻里子は確かに、恥じらいながらも、手を伸ばしかけていた。
彼女なりの精一杯の表現で、気持ちを伝えてくれていたのかもしれない—と。
貴之はベッドから起き上がり、キッチンに置いていたグラスにウイスキーを注いだ。
氷は入れない。ストレートで、一気に喉を通す。
「……麻里子」
ぽつりと、その名を口にする。
ほんの少しだけ笑みがこぼれた。
「君のような女を、小悪魔っていうんだな……」
ウイスキーの琥珀色を見つめながら、続ける。
「降参だよ、ほんとに」
彼女に振り回されるたびに、自分の中の何かが壊れて、また作り直されるような気がする。
心地よい混乱。戸惑い。焦燥。
そのすべてが、妙に愛しい。
グラスをもう一杯傾けると、貴之はベランダの扉を開けた。
夜風が頬を撫でる。
残りの休暇、どう過ごすべきか。
ひとりで過ごすのか、それとも—
(いや……違うな)
麻里子の、はにかんだ笑顔が浮かんだ。
彼女と、もう少し踏み込んだ時間を持ちたい。
ただの休日じゃなく、“ふたりの記憶になるような”数日にしたい。
そう、思った。
(まずは……明日、どう声をかけようか)
グラスの中身が空になり、貴之はようやく静かにベッドへと戻った。
—夜の余韻の中、彼の決意だけが、淡く熱を帯びていた。
麻里子からの返信が届いている。
本当は……もう少しだけ、一緒にいたかったです。
「…………」
一瞬、脳がフリーズした。
(……え?)
スクロールしてもう一度読む。
本当は……もう少しだけ、一緒にいたかったです。
(おい……これ……)
背筋がピンと伸びた。
「……え、俺……帰らない方がよかったやつ!?」
立ち上がって、部屋をぐるぐる歩き出す。
「え、なに、まさかの……誘われてた? そういう感じだった!? いや、でも“ニンニクのにおいが……”とか言ってたし……あれはやっぱり遠回しに帰れってサインじゃなかったのか!?」
思わず頭を抱える。
「くそっ、女心むずかしすぎる!!」
そして、目に飛び込んでくるもう一文。
あたたかい気持ちで眠れそうです。
「……どっちの意味なんだ、それは」
真剣な顔でスマホを見つめ、考える。
「“あたたかい気持ち”って、俺の行動が嬉しかったのか……それとも、“ああ、やっと帰ってくれた〜”って意味の安堵だったのか……!!」
(“もう少しだけ”っていう言葉が、俺への気遣いなのか、それとも……もしかして、本気で……?)
がばっ!とスマホを持ったまま、再びソファに倒れ込む。
「……どうすれば正解だったんだ……!」
—今なら戻れる。
いや、でも、戻ったら戻ったで“え、まだ来るの?重くない?”って思われる可能性もある。
いや、でも、女心はタイミングが命じゃないのか!?
でもでも! 俺、すでにドア閉めた!風呂も入った!着替えもした!いま行ったら “必死”感出ないか!?
「はああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
貴之、またもソファに沈みこむ。
(……なんで俺は、こんなに麻里子に振り回されてんだ……)
それでも。
—もう少しだけ一緒にいたかった。
その一言だけが、胸に甘く、ちょっとだけ痛く残っていた。
何度目かのため息をついたあと、貴之はついに頭を抱えた。
(……もうダメだ。考えれば考えるほど、麻里子の言葉の真意がわからん)
「“もう少しだけ一緒にいたかった”って……あれは何の罠だ?」
真面目な顔で、独り言をつぶやく。
「俺が帰ったのを惜しんでくれた……のか? それとも、あれか? 女の“なんとなく言ってみただけ”ってやつか?」
バカ正直に真に受けて帰ってきた自分を省みて、じりじりと後悔が込み上げる。
けれど、どこかで感じていた。
麻里子は確かに、恥じらいながらも、手を伸ばしかけていた。
彼女なりの精一杯の表現で、気持ちを伝えてくれていたのかもしれない—と。
貴之はベッドから起き上がり、キッチンに置いていたグラスにウイスキーを注いだ。
氷は入れない。ストレートで、一気に喉を通す。
「……麻里子」
ぽつりと、その名を口にする。
ほんの少しだけ笑みがこぼれた。
「君のような女を、小悪魔っていうんだな……」
ウイスキーの琥珀色を見つめながら、続ける。
「降参だよ、ほんとに」
彼女に振り回されるたびに、自分の中の何かが壊れて、また作り直されるような気がする。
心地よい混乱。戸惑い。焦燥。
そのすべてが、妙に愛しい。
グラスをもう一杯傾けると、貴之はベランダの扉を開けた。
夜風が頬を撫でる。
残りの休暇、どう過ごすべきか。
ひとりで過ごすのか、それとも—
(いや……違うな)
麻里子の、はにかんだ笑顔が浮かんだ。
彼女と、もう少し踏み込んだ時間を持ちたい。
ただの休日じゃなく、“ふたりの記憶になるような”数日にしたい。
そう、思った。
(まずは……明日、どう声をかけようか)
グラスの中身が空になり、貴之はようやく静かにベッドへと戻った。
—夜の余韻の中、彼の決意だけが、淡く熱を帯びていた。