その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
今日子の表情は、いつの間にか柔らかくなっていた。心の重荷が少し軽くなったのだろう。笑顔も自然で、声にも明るさが戻っていた。

そんな今日子を囲んで、酒盛りは穏やかに続いた。グラスが軽く触れ合い、笑い声がこぼれる。気がつけば、今日子はソファにもたれ、すやすやと眠っていた。

「よく飲んだね、今日子さん」

麻里子がくすりと笑う。

貴之はローテーブルをそっと端に寄せ、麻里子と手早く片づけを済ませると、空いたスペースに布団を敷いた。静かに今日子を横たえ、肩にブランケットを掛ける。

部屋の明かりを落とし、音を立てないようにキッチンやグラスを整えたあと、二人はそっと玄関へ向かった。

「おやすみ、麻里子」

貴之が囁くように言いながら、麻里子を抱きしめた。温かな腕に包まれた瞬間、麻里子の胸が静かに満たされる。

唇がそっと重なる。柔らかくて、優しいキスだった。

「貴之さん、今日はありがとう。……今日子が元気になって、本当によかった」

「そうか。よかったな」

貴之の声も、どこか安堵に満ちていた。そしてふいに、彼が麻里子の耳元で囁いた。

「麻里子。明日は……俺と過ごしてくれ」

その低く甘い声に、麻里子の心臓が跳ねる。

「もちろんよ」

自然と笑みがこぼれた。

すると貴之が、もう一度耳元で優しく言った。

「明日は、麻里子を思いっきり甘やかす」

抱きしめる腕に力がこもる。麻里子も、その胸にしがみつくようにして言った。

「私……そうしてほしいわ」

二人は微笑み合い、静かにキスを交わした。

穏やかな夜の空気に包まれながら、心も体もほどけていくような、優しい余韻の中で、その夜は静かに幕を閉じた。
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