その抱擁は、まだ知らない愛のかたち
次の日、貴之は麻里子の部屋を訪れた。二人並んで座る。
二人とも何も言わない。

沈黙を破ったのは、麻里子のほうだった。
声は静かで、けれどはっきりとした響きを持っていた。

「……やりたいことがあるの」

貴之の眉がわずかに動く。

「ずっと、やりたいって思ってた。
でも、怖くて踏み出せなかった」

「……何をやりたいんだ?」

貴之の声は低く、感情を抑えているようだった。
だが、麻里子はすぐには答えなかった。

「……俺に言えないことなのか?」

問いかけに、麻里子は少しだけ目を伏せて、そして首を横に振った。

「そうじゃないの。
でも……今は、まだ言いたくない。ごめんなさい」

貴之は黙ったまま、麻里子の顔を見つめていた。
その眼差しに、怒りと戸惑い、そしてどこかに悲しみが滲む。

麻里子は、その視線に耐えるように息を吸い、そして、最後の言葉を口にした。

「──もう、会うのをやめましょう」

カップの中で、コーヒーの湯気がゆらりと揺れる。
その言葉がどれだけ残酷で、どれだけ勇気のいるものだったか、貴之にも伝わっていた。

けれど、彼はそれをすぐには受け止められない。
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