Love Potion
 私、九条美月(くじょうみつき)は、周りの人間から見ると幸せで羨ましいと疎まれる環境で生活をしている。
 私は専業主婦で、夫である九条孝介(くじょうこうすけ)は三つ年上の三十一歳。
 次期、大手電気メーカーの社長に就任予定だ。
 
 なぜその若さで何千人もの社員がいる企業の社長になれるのか。
 それは簡単な理由で、夫の父親が現在の社長だからだ。
 付き合った当初は<親の敷いたレールだから。自分じゃ何も出来ていないから恥ずかしいよ>なんて謙遜したことを言っていたけれど。
 今では、その親の敷いたレールを上手く利用して、何不自由ない生活を送っている。

 結婚してニ年が過ぎ<そろそろ孫の顔が見たい……>なんて姑に会うたびにせがまれる。だけど「子どもができる」そんな気配は全くない。
 それは既に私たちが仮面夫婦だから。

「今日から二泊三日の出張に行ってくる。ご飯はこれで食べて」
 玄関先まで見送った時、唐突に孝介から言われた。
「えっ、今日から?急だね」
 昨日帰ってきた時は何も言っていなかったのに。
 そしてご飯代として渡されたお金が千円札一枚だった。

「忙しいんだよ。帰ってくるのも遅くなるから。三日後の夕ご飯もいらない」

 三日間、朝昼晩の食事を千円で過ごせと言うの。
 自分は出張という名の接待か何かで、豪遊してくるくせに。
 
 金銭管理は孝介が全て行っている。
 冷蔵庫もほとんど何も入っていない。
 それは食材については、孝介が雇った家政婦さんが全て管理しているからだ。   
 
 千円でも贅沢ができるかもしれない。
 けれど自分(孝介)は贅沢しているクセに、思いやりが全く感じられない金額に心の中で苛立ちを覚えた。

「三日分の洋服とかは?大丈夫なの?」

 二泊三日の出張であるのに、荷物が少ない。
 彼は、薄めのビジネスバッグ一つしか持っていなかった。

「ああ。母さんに用意してもらってる。出張前、父さんに挨拶してから行くから。そのついでに荷物を持って行くつもり」
 
 実家に帰らなくても、孝介の着替えはたくさんあるのに。キャリーバッグだって。
 自分で準備をするのが面倒だったら、私に言ってくれれば良いのに。
 わざわざ実家に寄って行くって、出張がお義父さんと一緒ならわかるけど……。
 
 不自然な感覚を覚えながらも、追究はしなかった。
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