【改訂版】満月の誘惑



荘司さんは背が高い分、足幅も大きいから、小走りしないと追いつけず、私の体力の減りが早い。


時々立ち止まって呼吸を整えながら、見失わないように目で追う。



まさか二日間歩きっぱなしの修行をしているなんて、無謀なことはしていないだろうか。


でもそれで、顔に傷ができることは極めて低い可能性だ。


ただひたすらについて行き、辺りも暗くなってきた頃、荘司さんは森に足を踏み入れた。


誰も入りたがらない、伝説がある森。



〝人狼の森〟



満月の夜になると、狼人間は狼に変身して人間に戻るまで、この森で群れとなって過ごすと言われている。


そんなの噂で、本気にはしていなかったけど、いざ目の前にすると不気味な雰囲気を醸し出している。



空を見上げれば月は完全に満ちている。そして荘司さんの一ヶ月に一回の外出。帰宅すると増えている傷。


荘司さんが私たちに真実を言えないのは、狼人間だからで間違いないだろう。



問題はここから。本当に狼人間なのか、確かめたい。


でも、鉢合わせてしまったら、私は月城家に一生帰れない。このまま引き返しても良いが、森に入った理由が他にあるならと考えると、好奇心が勝ってしまい、家には帰れなかった。



無造作に生い茂った雑草が足に絡まり、上手く前に進めない。どうにか足でかき分けながら森の中を深く進んで行く。


森の景色は暗く深くなっていくのに、月の光は段々と明るさを増してきて、時々遠吠えが聞こえる。


犬なのか狼なのか。


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