アルト、美術館に行く【アルトレコード】
「なあ先生」
 いつもの研究室でいつも通りに仕事をしていた私は、呼びかけられてパソコンから顔を上げた。

 さっきまでデジタル美術館で絵画や彫刻を見ていたアルトが、真剣な顔でこちらを見ている。やや吊り目の赤い瞳は情熱に燃えるようだ。

 少年のころは大人しくてかわいかったのに、こんな精悍な青年になるとは思ってもみなかった。赤いベルトがかっこいい黒服は、本人も気に入っているらしい。

「先生に頼みがある」
「なに?」

「俺、本物の美術館に行きたいんだ」
 彼の申し出に、私はとっさに答えられなかった。

「デジタル美術館なら俺がAIだってことを気にせずに見られるけどさ。だけど、やっぱりなんか違うってーか……」
「わかるよ、なんか違うっていう感覚」

 私は頷く。本物がある空間って独特の空気があって、画面越しに見ているのとはなんか違うから。そのなにかはなかなかうまく説明できない。

「アルトは絵が好きだもんね。いろんな本物を見たいよね……」
「ああ、できれば世界中の美術館を見て回りてえ。っくそ、義体があればな」
 アルトは悔しげにつぶやく。

 うーん、義体だけじゃなくて戸籍とかパスポートとかいろいろ問題あるけど、とりあえず黙っておこうかな。
 でもAIなら義体でも貨物で移動できたりするのかな? 詳しく考えたことなかったけど、アルトを貨物扱いは嫌だ。
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