野いちご源氏物語 二三 初音(はつね)
玉葛(たまかずら)姫君(ひめぎみ)は、十月に六条(ろくじょう)(いん)に引っ越していらっしゃったばかり。
まだ細々(こまごま)とした家具は整いきっていないけれど、よい雰囲気でお暮らしなの。
女童(めのわらわ)も上品で、女房(にょうぼう)たちがたくさんお仕えしている。
姫君ご本人もお美しい。
山吹(やまぶき)色の()()が華やかなお顔によくお似合いで、明るくきらきらとしていらっしゃる。
理想的な姫君よ。

よくご覧になると、九州でのご苦労のせいかお(ぐし)の先が細くなっているけれど、それもまたさわやかでよいの。
はっきりとした美人でいらっしゃるので、
<見つけ出せてよかった>
とあらためてお思いになる。
父親顔をしたままではいらっしゃれないのではないかしら。

源氏の君は玉葛の姫君のところへ頻繁(ひんぱん)にお越しになっている。
すっかりお顔を見慣れてしまったけれど、姫君はやはり打ち解けようとはなさらない。
それはそうよね、実の親子ではない奇妙(きみょう)なご関係だもの。
でもそんなご様子も、源氏の君のお心を刺激(しげき)する。

「まだこちらにいらっしゃって三か月にもならないとは思えませんね。ずいぶん長くお世話してきたような気がします。遠慮(えんりょ)なさらず春の町にも遊びにいらっしゃい。幼い姫がおりましてね、(こと)などを習っていますから、あなたもご一緒になさるとよい。(うわさ)好きな人はいませんから、心配いりませんよ」
父君(ちちぎみ)らしくおっしゃるので、姫君も素直に、
(おお)せのとおりにいたします」
とお返事なさる。
< 5 / 15 >

この作品をシェア

pagetop