甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
 それから定時で終了した私は、デスクを片づけ、そそくさと総務部を後にする。
 そして、ロッカールームで簡単にメイクを直し、少しだけ浮かれながら、エレベーターで一階へ。

「お疲れー、みんな外で待ってるよ」

「お、お疲れ様」

 すると、池之島さんが、社員入り口ドアの辺りで待っていてくれて、私を手招きするので、早足で向かった。

 ――ああ、髪、ボサボサじゃないかな。
 ――メイク、よれてないかな。

 ――もうちょっと、かわいい服にすれば良かった。

 そんな事を思いながら、彼女の元に行くと、他に二人待機していた。
 どちらも同期――確か、有明(ありあけ)さんと、殿岡(とのおか)さん。
 課は違うが、同じ総務部に配属されたはず。
「お疲れ様。津雲田さんって、総務飲み(・・・・)初めてだよね」
「え」
 有明さんに尋ねられ、キョトンと返す。
「ああ、総務部で不定期にやってる飲み会の名称なの。何か、昔から、そう言われてるんだって」
「そ、そうなんだ」
 すると、反対隣にいた殿岡さんが、コソコソと続ける。
総務部(ウチ)だけなんだって。こんな風にやってるの。他の部署に、お気楽だって言われてるけど――」
「でも、それだけ仲が良いってコトじゃん」
 有明さんがそう続けるので、私は、同意するようにうなづく。
「そ、そうだね。……楽しみ」
「じゃあ、行きましょか」
 池之島さんが、出入口のドアを開けると、既にぞろぞろと集団が――約三十人ほど。
 総務部は三課あるけれど、係が細かく分かれているので、総勢五十人ちょい。
 だから、参加率が高いのは、一目でわかった。

「あれー!津雲田さんじゃん!参加できるんだ!」

 すると、待っていた人達の中から、そんな声が聞こえ、恐る恐る頭を下げる。
「よ、よろしくお願いします」
「そんな、かしこまらなくても良いのよ。半分はプライベートなんだし」
 後ろから池之島さんに言われ、顔を上げてうなづく。

 ――夢にまで見た、”プライベートの飲み会”。

 マチアプ、デート、合コンというワードが絡まないなど初めてで、私は、少しだけ浮かれた気分になる。

「じゃあ、行きましょー!」

 集団の誰かが音頭を取って、全員が歩き出す。
 駅前の居酒屋に予約は入れてあるそうで、そこまでは徒歩五分。
 ざわつく雑踏の中、まあまあの集団は、少しだけ距離を置かれるが、当の本人達は、高いテンションのまま歩いて行く。

 ――楽しいと良いな。

 そんな風に期待しながら、私は、一番後ろをついて行ったのだった。
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