甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
LIFE.24
 増沢が部屋を後にし、残された私は、そのまま床にへたり込んだ。

 ――美善さんが――……。

 ――レオン薬品の創業者一族……。

 思ってもみない告白に、視線を下げて唇を噛む。

 ――……今まで、私が一緒にいた彼からは――……お見合い相手だったとか、創業者の孫だとか、全然感じ取れなくて……。



 ――月見、お見合いが決まったよ。


 ぼんやりと、お見合いが決まった時のコトを思い出す。
 パパは、大学の卒業式の後、お祝いのプレゼントと一緒にお見合い写真を手渡してきた。

 ――会社の都合もあって、純粋に月見の希望に叶うかはわからないけれど……。

 少々バツが悪そうなパパの表情に、私は首を振った。

 ――大丈夫だよ。
 ――私のために、選んでくれたんでしょう?なら、何も言うコトなんて、無いよ?

 その言葉に、パパは、肩の力を抜いた。

 ――そうだね。こちらからお願いして、セッティングしたくらいなんだ。
 ――人柄については、太鼓判を押せると思うよ。

 私は、受け取ったお見合い写真を腕に抱え、誕生日プレゼントの袋をのぞき込みながら尋ねた。

 ――じゃあ、私の夢、叶うかな?

 昔から言っていた――甘く幸せな結婚。

 パパは、しっかりとうなづいてくれた。

 ――うん。
 ――きっと、パパとママが、あきれるくらいに、仲良くなれるんじゃないかな。

 私は、笑顔でうなづいて返す。

 ――ありがとう、パパ、ママ。



 そんな――幼い子供のようなやり取りは、もう、記憶の奥底に埋めていたのに。

 ――あの時は――まさか、こんなコトになるなんて、思ってもみなかったから――……。


 ――……ねえ、パパ、ママ。

 ――……私――一体、どうしたら良いんだろうね……。


 答えをもらえるはずもない問いかけ。

 ――結局、自分自身で、考えるしかないんだ。

 私は、ゆっくりと顔を上げる。

 棚の上の、家族写真だけが――色褪せないまま、たたずんでいた。



 翌日――目だけが開き、煤けた天井をぼんやりと眺める。
 昨日のコトが、ウソみたいに、平和な目覚め。
 私は、ゆっくりと起き上がると、キッチンの作業台に置いたままの、昨日買ったパンを袋から取り出した。
 その場で開けて、モソモソと口に入れ続ける。
 それは、もう、単純作業のようで。
 味など、何にも感じなかった。
 そして、狭い部屋を見渡し、大きくため息。

 ――全部……夢だったら、良いのにな……。

 かなわない現実逃避。
 すると、ベッドに投げていたままのスマホが振動する。

 ――美善さん……?

 ドキリ、と、心臓が跳ね上がり、急いで手に取り――ため息。
 何の脈絡も無い、迷惑メール。
 けれど、差出人の名前がハッキリと書いてあるコトに違和感を覚え、恐る恐る開いた。


 ――津雲田月見様。

 ――元ツクモダ専属の弁護士、櫛方(くしかた)と申します。

 ――お待たせしておりました、相続の手続きが行われる事となりました。
 ――つきましては、細かいご説明のため、ご都合をうかがい致したく、メールを差し上げました次第です。


 思わず、スマホが手から滑り落ちる。

 呆然としたまま、気がつけば、日差しがカーテンの隙間から、痛いほどに差し込んでいた。
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