甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
「大渕さんには、息子さんが三人おられたんですが、結婚していたのは、三男の光三(こうぞう)さんだけ。しかも、奥様とは、離婚。その後、会う事は、まったく無かったらしいんですよ」

 櫛方さんは、一旦、お茶で唇を湿らせ、続ける。

「ですから――厳密に言えば、月見さんのお相手は、いないも同じだったんです」

「じ、じゃあ……」

 ――何で……美善さんは……。

 私の疑問を感じたのか、櫛方さんは、眉を下げた。

「――だから、こちらの方で探したんです。光三さんに息子がいるのは確かだったので」

「……え……と……」

 ――それって……会社を吸収合併してもらうために……わざわざ、美善さんを捜したってコト……?

 私は、一気に罪悪感に襲われてしまった。

「最初は、門前払いでした。ですが、ツクモダの事情をお話しし、了承していただけたのです」

 ――……ああ……そう、ね……。

 ――……美善さんは、そういう人だもん……。

 以前から言われていた言葉は――そういうコトだったんだ。


 ――何があっても、見放したりしねぇから。


 徐々に視線が下がり、涙が浮かんできた。

「お嬢様」
 増沢に気まずそうに呼ばれ、私は、目尻に溜まった涙を指でこする。

「……うん……わかってる……。それが――その時のウチにとって、最善だって……」

 ――でも、それは……きっと、美善さんにとっては、最悪だったに違いない。

 ご両親の離婚後、一度も会ってないお祖父(じい)さんの意思で、私と政略結婚させられるなんて……。

「今現在、月見さんの資産は、レオン薬品――大渕さんの方の管理下に置かれていますが、相続手続きが終われば、そちらも返却される予定ですよ」

「――え」

 私は、勢いよく顔を上げた。
 そして、増沢を振り返る。

「……ど、どういうコト?」

「――お嬢様の資産は、ご親戚中に狙われておりました。なので、大渕様が、事態が落ち着くまでは、と、ご自身の資産と偽って匿っておられたのです」

「――……は……?」

 いつの間にか消えていた資産は――匿われていた?
 ――奪われたんじゃなくて……?

 増沢は、呆然としている私の前にヒザをつくと、頭を下げた。

「――お嬢様には内密に、という事でしたが……多大なるご心労をおかけしてしまいまして、申し訳ございません」

「……ヤ、ヤダ、やめてよ、増沢!」

 確かに――ショックだったし、パニックだった……けど。

「増沢は、私以上に大変だったんじゃない!……パパとママが死んじゃってから、私がやらなくちゃいけないコト、全部やってくれて――その上、秘密を守らなきゃいけなくて……」

 けれど、増沢は、そのまま緩々と首振った。

「増沢は、お嬢様をお守りする事が最後の務めと、旦那様と奥様にお約束しておりますので――」

「……うん。……でもね、増沢、顔を上げて」

 すると、増沢は、素直に顔を上げる。
 私は、泣きそうになるのを我慢しながら、微笑みを作って言った。

「――ありがとう。……増沢がいなかったら、私は、今、こうしていられなかった」

「……お嬢様」

 そして、櫛方さんを見やり、言った。

「――櫛方さん、事情は大体わかりました。……相続手続きを、開始してください」

「承知いたしました」

 うなづく彼に、私は、更に続けた。


「――レオン薬品には、ツクモダのすべてを譲ります。……だから……この先、私と美善さんに、一切かかわらないよう、伝えてください――……」

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