甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
「――お嬢様には、まったく想像がつかなかったかと思いますが――ツクモダは、旦那様と奥様のご親戚――すなわち、グループの主な株主の方々の間で、乗っ取りの計画がございました」
「……は????」
一瞬で、頭は真っ白だ。
さすがに不憫に思ったのか、櫛方さんが、場を繋ぐように、気まずそうに出されたお茶を口にする。
「旦那様も奥様も、研究者タイプでしたのは、重々ご承知でしょう」
「――ま、まあね。……二人とも、仕事が詰まってくると、他に何も考えられないタイプだったから……。よく、開発実験だけしていたいって、ボヤいてたわよ……」
今でも――書類と睨み合っている二人が、時折、幼い私をヒザの上に乗せて、そんなコトを言っていたのを覚えている。
二人とも、いかに、機械を効率的に動かすか、とか、数ミリ単位の微調整に何十時間も費やしていたりとか……とにかく、経営者タイプでは無かったのは確かだった。
増沢は、私にうなづいて返し、続けた。
「ツクモダは、だいぶ以前より、水面下で、経営に関する争いが起きておりまして――上層部に至りましては、五年以上前から、混乱状態になっていたのです」
私は、お葬式の日を思い出す。
――あれは――そういうコトだったんだ。
顔も知らない親戚や、記憶の彼方にいるような――おじさんやおばさん。
そんな彼等が、取り乱していた様は、恐怖と嫌悪しか無かった。
「旦那様も奥様も聡明でしたが――経営に関しては、ご親戚の方々の方が上手でした。気づいた時には、既に、自分達も立場を追われる寸前で」
「で、でも……なら、何で、レオン薬品が……」
「旦那様は、以前より、創業者の大渕様とは、親交がおありでした。取引先とはいえ、やはり、研究者タイプのお二人で、馬が合ったようでしたので」
増沢は、一旦息を吐く。
長々と説明していたら、喉も乾くだろう。
「――増沢、お茶、いる?」
座りながら尋ねれば、にこやかに首を振られた。
「お気遣いありがとうございます。――ご厚意は、ご説明が終わりましたらで」
「……そ、そう」
そう言って、増沢は、櫛方さんを見やった。
「――それで、顧問弁護士である櫛方様を交えて、法的に問題なく、ツクモダをレオン薬品に吸収合併していただく方法を考え――その約束も兼ねて、お嬢様と日水様とのご縁談の話が上がったのです」
櫛方さんは、うなづいて返し、私に言った。