甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
 ようやく泣き止んだ私は、いつぞやのように、美善さんのヒザの上に座らせられた。
 彼は、私の髪を優しく撫で続けている。
「……落ち着いたか?」
「……っ……うるさ、いっ……!」
「悪かったって」
「美善さんの、バカー……」
 もう、何回目ともわからないやり取り。
 彼は、その度に謝ってくれたので、私は、グスグスと鼻を鳴らし、しゃくりあげながらも尋ねた。
「……で、もっ……み、美善さんのコト襲う、なんて……」
 見た目からも、彼は、到底ひったくりに遭うようなタイプではないと思うのに。
 ――犯人は、暗くて見えなかったのかな。
 そんなコトを思っていると、苦笑いで返された。
「あー、襲われたのは、オレじゃなくて、コンビニ帰りの婆さん」
「――え」
「ホレ、隣の――広神、だったかがバイトしてる店から出てきたんだよ。そしたら、すぐに、黒い姿のヤツが婆さん突き飛ばして、バッグを奪おうとしたもんでな――もう、反射だ」
「……ケンカになったの……?」
 犯人が抵抗したから、美善さんはケガしたんだ。
 私が眉を下げると、優しく髪を撫でられた。
「ケンカっつーか、相手が苦し紛れに盗ったバッグを振り回して、それがちょっと当たっただけだ」
「――……え」
「オレが、肉弾戦で後れを取ると思うか?元ラグビー部だぞ?」
「……そっ……それとコレとは、話が違う!」
「ああ、今は反省してるから、許せ」
「偉そうに!……心配、だったのにー!」
「悪かった」
 そう言って、美善さんは、軽くキスを落とす。
 そして――そのまま、頬を寄せた。
「……美善さん?」
「――……ありがとな……心配してくれて」
「……それ、反省してるの?」
「ああ。――でも、ちょっと、うれしいってのもあるか」
「何でよ」
 ムスリと返すと、真剣な表情で見つめられ、私は、次の文句を飲み込んだ。


「……そんなに、オレの事、心配してくれたのか、ってな」


「――……だ、だって……やっぱり、好き、だから……」


 思わず再告白になってしまい、恥ずかしくなり口ごもる。
 けれど、美善さんの視線は動かないまま。

「……美善さん……?」


「――……愛してる」


「……え」


 ――……え??

 思わぬ言葉に、目を丸くする。
 真っ赤になった彼は、それでも、私から視線を逸らさない。
 つられて真っ赤になっただろう私は――けれど、満面の笑みが浮かんだ。


「――うん。……私も、愛してる」


 そして、そう告げると、自分から美善さんに抱き着いたのだった。
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