甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
 少しだけ、お手洗いでメイクを直してやり過ごし、部屋に戻ると、既にお開きの音頭が取られていた。

「あ、お帰りー。津雲田さん、二次会どうする?」

 平然と池之島さんに尋ねられ、一瞬、言葉を失うが、私は、緩々と首を振った。
「き、今日は、もう、これで――」
「そおー?まだ、みんな帰らないけど?」
「ご、ごめんなさい。家、遠いから――」
「そっか、残念。また、飲みましょうね」
「うん。――じゃあ、お先に」
 再び、ぞろぞろと場を変える為に動き出した集団の一番後ろにつき、私は、店を出る。
 そして、一人、駅に向かおうとすると、不意に左腕を取られ、振り返った。
「ねえ、津雲田さん。ちょっと飲み直そうよ」
 そこには、先ほど、池之島さんと話していた男性社員。
 内緒話をするように顔を近づけられ、そのアルコール臭に、心の中で顔を盛大にしかめた。
「あ、あの、私、今日はこれで――」
「いいじゃん。電車?バス?送って行くからさ」
「いえ、あの」
「同期同士、もうちょっと、親交を深めようとは思わない?」
 私は、顔を上げ、彼の顔をまじまじと見つめる。

 ――同期?

「え、何?行く気になった?」

「……同期、でした……?」

 素で尋ねてしまうと、彼は、ポカンと私を見つめた。

「えぇー?マジで?」
「ご、ごめんなさい。……あまり、交流が無いから……」
「ああ、まあ、そっか。お嬢様はオレ達みたいな平民には、興味無いかー」
 まるで、蔑まれたような言い方に、目の前が暗くなる。
「そ、そんな事……」
「じゃあ、付き合ってよ。どうせなら、ホテル行く?」
「――……っ……!!?」
 挨拶代わりみたいな言葉に、言葉を失った。
 そんな私を見やり、彼は、あきれたように顔をしかめた。
「何、ぶって(・・・)んだよ。有名だぜ、アンタ、マチアプで男漁ってるって」
「そ、それはっ……」
「金に物言わせてヤる相手探してんなら、喜んで相手するのになー」
「ち、違います!私は、真剣に……」
「マチアプの時点で、飢えてるってコトだろ?」
 バカにしたような言い方に怒鳴りたくなったけれど、何せ、左腕を取られ、引きずるように駅前のホテル街の方向へ向かおうとしているのだ。
 それに抵抗するのに必死で――でも、久し振りに飲んだアルコールが回って、上手く力が入らない。
「や、やめてってば!」
「うるせぇな、さっさと来いって――」
「嫌っ……!」

 ――まさか、こんな事になるなんて。

 私は、どうにか足を踏ん張ってみるが、男の力の前には、為す術も無く。


 ――やだ、やだ、やだ‼



「おい、嫌がってんだろうが」


 すると、不意に耳に入った――聞き慣れた低い声。
 そして、次には、フワリと包まれる感触。

「――日水先輩」

 顔を上げれば――先輩が、同期の男から引きはがすように、私を抱きかかえていた。
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