甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
「――津雲田、同意の上か」
頭上から、ドスの効いた声で尋ねられ、私は、慌てて首を横にブンブンと振り続ける。
「ひ、日水主任」
目の前の同期は、一気に酔いが醒めたのか、震えた声で先輩をうかがう。
この暗い中、大きな先輩の影が圧をかけ、徐々に彼は後ずさっていく。
「――二課、三係――平木だな。――プライベートとはいえ、明らかなセクハラ事案だ。上に、上げさせてもらおうか」
「えっ、いや、オレはそんなつもりは――」
「じゃあ、何で嫌がっている女を引きずっているんだ」
その同期――平木は、チラリと私を見やると、引きつった顔で言った。
「そ、そんな訳無いでしょう、主任。……津雲田さん、マチアプで男探してるくらいですよ?普通、ヤレるって思うでしょ」
「なっ……!」
――どういう理屈よ!
目を剥いた私を、日水先輩は、抑え込むように抱いていた腕に力を入れる。
そして、平木を見下ろし――冷たく言い放った。
「マチアプで探そうが、会社で探そうが、津雲田は本気だ。その意思を、勝手に歪めて貶めるな」
平木は、ひゅ、と、息をのむ。
けれど、次には、
「あ……ああ、そっスか。――主任も相手だったんですか」
そう、街灯に照らされた青い顔を歪め、悔し紛れに言い放った。
私は、瞬間、否定しようと口を開こうとするが――。
「だから、何だ」
――……は?
聞こえたのは――空耳か。
「言っておくが、オレもじゃない。――オレがだ」
あっけに取られた私の表情を見せないように、先輩は、その広い胸――ではなく、厚い腹筋に抱き込むと、平木に向かって告げた。
「――いいか、これ以上コイツに構うようなら、オレが全力で潰してやる」
先輩の顔は見えないけれど――その、雰囲気は緊張感を持っていて――。
つられて私の鼓動も速くなっていく。
「せ、先輩、あの――」
「黙ってろ、月見」
先輩は、強引に、上げようとした私の顔を押さえつけ、そのまま抱え込むように抱き締める。
――……あれ……?
――……コレって――どういう事??
「あの、先輩?」
「――黙ってろって言ってるだろう」
「でも」
「――平木は行ったが、まだ、同期がこっちをうかがってる」
「え」
どうにか、先輩の腹筋から顔を半分出して、その視線の先を見やると、駅前に揃った集団が、こちらを指さしたり、わめいたり、大騒ぎをしていた。
「――……話は後だ。……このまま、帰るぞ」
「え、あ、あの」
「今日は、送る」
「え、で、でもっ……!」
――コレは――マズくない?
あの、古い――いや、ボロいアパートを見られる訳には!
私は、先輩から解放されると、そのまま後ずさる。
次から次へと――ホント、今日は厄日なの⁉
「おい、津雲田」
「い、いえ、大丈夫ですってば」
「何がだ」
「別に、送ってもらわなくても――」
「じゃあ、また、平木に捕まりたいのか」
「そんな訳、無いでしょ!」
「なら、あきらめろ。どの道、アイツ等の前を通らないと、バスターミナルに行けないぞ、お前」
そう返され、言葉に詰まる。
「……じ、じゃあ、先輩、途中でバス降りません……?」
どうにか苦肉の策を提示したが、
「アホか。却下だ」
バッサリと切られてしまった。
頭上から、ドスの効いた声で尋ねられ、私は、慌てて首を横にブンブンと振り続ける。
「ひ、日水主任」
目の前の同期は、一気に酔いが醒めたのか、震えた声で先輩をうかがう。
この暗い中、大きな先輩の影が圧をかけ、徐々に彼は後ずさっていく。
「――二課、三係――平木だな。――プライベートとはいえ、明らかなセクハラ事案だ。上に、上げさせてもらおうか」
「えっ、いや、オレはそんなつもりは――」
「じゃあ、何で嫌がっている女を引きずっているんだ」
その同期――平木は、チラリと私を見やると、引きつった顔で言った。
「そ、そんな訳無いでしょう、主任。……津雲田さん、マチアプで男探してるくらいですよ?普通、ヤレるって思うでしょ」
「なっ……!」
――どういう理屈よ!
目を剥いた私を、日水先輩は、抑え込むように抱いていた腕に力を入れる。
そして、平木を見下ろし――冷たく言い放った。
「マチアプで探そうが、会社で探そうが、津雲田は本気だ。その意思を、勝手に歪めて貶めるな」
平木は、ひゅ、と、息をのむ。
けれど、次には、
「あ……ああ、そっスか。――主任も相手だったんですか」
そう、街灯に照らされた青い顔を歪め、悔し紛れに言い放った。
私は、瞬間、否定しようと口を開こうとするが――。
「だから、何だ」
――……は?
聞こえたのは――空耳か。
「言っておくが、オレもじゃない。――オレがだ」
あっけに取られた私の表情を見せないように、先輩は、その広い胸――ではなく、厚い腹筋に抱き込むと、平木に向かって告げた。
「――いいか、これ以上コイツに構うようなら、オレが全力で潰してやる」
先輩の顔は見えないけれど――その、雰囲気は緊張感を持っていて――。
つられて私の鼓動も速くなっていく。
「せ、先輩、あの――」
「黙ってろ、月見」
先輩は、強引に、上げようとした私の顔を押さえつけ、そのまま抱え込むように抱き締める。
――……あれ……?
――……コレって――どういう事??
「あの、先輩?」
「――黙ってろって言ってるだろう」
「でも」
「――平木は行ったが、まだ、同期がこっちをうかがってる」
「え」
どうにか、先輩の腹筋から顔を半分出して、その視線の先を見やると、駅前に揃った集団が、こちらを指さしたり、わめいたり、大騒ぎをしていた。
「――……話は後だ。……このまま、帰るぞ」
「え、あ、あの」
「今日は、送る」
「え、で、でもっ……!」
――コレは――マズくない?
あの、古い――いや、ボロいアパートを見られる訳には!
私は、先輩から解放されると、そのまま後ずさる。
次から次へと――ホント、今日は厄日なの⁉
「おい、津雲田」
「い、いえ、大丈夫ですってば」
「何がだ」
「別に、送ってもらわなくても――」
「じゃあ、また、平木に捕まりたいのか」
「そんな訳、無いでしょ!」
「なら、あきらめろ。どの道、アイツ等の前を通らないと、バスターミナルに行けないぞ、お前」
そう返され、言葉に詰まる。
「……じ、じゃあ、先輩、途中でバス降りません……?」
どうにか苦肉の策を提示したが、
「アホか。却下だ」
バッサリと切られてしまった。