甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
LIFE.28
 ひとまず、その話は保留というコトにしてもらい、電話を終えると、私は、美善さんを振り返った。
 静かな部屋の中だ。――たぶん、会話は聞こえただろう。

「――……み、美善さん……」

「――……ああ、大体、聞こえた」

 頑なになった口調に、眉を下げる。

「ど、どうしよう……。……結婚、反対されるのかな……」

「何でだよ。元はと言えば、祖父(じい)さんと、親父さんが言い出したコトだろ」

「そ、そうだけど……今の私には、理由が無いから……」

「は?」

 いぶかし気に返され、私は、美善さんに抱き着いた。
「だって……もう、ツクモダは、レオン薬品に全部譲ったんだし、相続の関係も終わるし……お祖父(じい)さんにとっては、メリット無いじゃない……」
「――バカ言うな。結婚は、オレ達がしてぇから、する。それだけだろ」
「……そうだけど……急に会いたいなんて……何かあるとしか思えないもん……」
 そう返せば、彼も、つられるように考え込んだ。
「……まあ……確かにな……」
 そして、苦々しい表情で、続ける。
「……けど、あるとすれば……むしろ、オレの方じゃねぇの」
「え」
「――……知ってるだろ。父親の兄貴二人は未婚だって」
「……う、うん……」
 それは、先日、櫛方さんから聞いた。
 それを思い出し――私は、美善さんに尋ねる。
「……もしかして……跡継げ、とか……?」

 もしも、世襲制にこだわるような人なら……次の世代の跡継ぎは、彼しかいないのだ。

「――無くは、無い……が、もちろん、速攻で断る」

 彼は、強い口調で言うと、私を抱き締める。

「――もう、一生離すつもりは無ぇんだからな」

「……うん」

 彼の胸に顔をうずめ、私は、うなづく。
 ――けれど、不安は、心の中に淀みを作っていくんだ。

「……大丈夫……だよね?……他の人と、結婚しろとか……言わないよね?」

「当たり前だろ。もし、言われたとしても、絶対に断るから、安心しろ」

「……美善さん……」

 彼は、私を離すと、真っ直ぐに見つめる。

「――月見、オレを信じられるか?」

「も、もちろんじゃない!」

 条件反射のようにうなづいて返せば、笑顔で返された。

「――なら、何を言われようが関係無ぇだろ。オレも、同席するから……会うだけは会ってみろ」

「……うん」

 私は、うなづくと、一旦増沢に連絡を取り、再び、櫛方さんに電話を入れる。
 そして――二週間後に、会う約束となったのだった。



 そして、当日。
 首が痛くなるような高さのホテルを見上げ、私は、隣の美善さんに言った。

「……ココ?」

「ああ。――ですよね、増沢さん」

「さようでございます、日水様」

 美善さんは、慣れたように、後ろに控えていた増沢を振り返ると尋ねた。
「増沢は、一緒にいてくれるの?」
 私が尋ねれば、増沢は、ゆっくりと首を振った。
「増沢は、お部屋の外で待機しております。――これは、お嬢様と、大渕様とのお話し合いでございますゆえ」
「……でも……」
「何より、日水様が、おそばについておられるのでしょう?何を不安になりましょうか」
 にこやかに言われ、私は、美善さんを見上げる。
 すると、珍しく、首まで真っ赤になっていた。
「美善さんー?」
「……うるせぇよ」
「もしかして、照れてるの?」
 私は、からかうように、軽く彼の腕を突く。
「放っておけ」
「増沢は、事実を申し上げたまでですよ、お嬢様。――お嬢様が、日水様をお慕いしているという事は、一目瞭然なのですから」
「――……っ……‼」
 あっさりとそう言い、増沢は、私達の先を行く。
 そして、ホテルの入り口で待機している男性従業員に声をかけた。
 それを見送り、私は美善さんを見上げると、苦笑いで見下ろしてくる。

「……かなわねぇな」

「……増沢だもん」

 二人で視線を交わし、照れながら微笑み合う。

 ――それだけで、何だか、不安が薄らいだ気がした。

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