甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
 お祖父(じい)さんの平然とした返しに、私も、美善さんも、目を丸くする。


「――え」


 ――あれ?


 あくまで穏やかに言われ、私は、恐る恐る美善さんを見上げると、彼は、口を半開きにしたままだ。
 お祖父(じい)さんは、それを見やり、少し意地悪そうな笑みを見せた。
 
「何だい、私が反対するとでも?」

「え、あ、いえ、あの……」

 何だか空回っているようで、恥ずかしくなる。
 子供のように、美善さんの腕に顔を隠すと、優しく頭を撫でられた。

「……良いのかよ」

「良いも何も、最初から、私と広貞(ひろさだ)くんとの間で出た話だ。願ったりだろう」

「――……あ、跡継ぎとか言わねぇのか」

 少々気まずそうに、美善さんはお祖父(じい)さんに尋ねる。
 すると、クッ、と、喉で笑われた。

「ああ、そういう心配か。――構わんよ。私は、別に世襲制にこだわっている訳じゃなくて、ただ、お前と――理美(さとみ)さんが、健在かどうか、心配だっただけだ」

 その言葉に、美善さんの空気が変わり、私は、一瞬、息をのむ。


「――母親は、死んだけどな」


「――……何?」


 目を見開いたお祖父(じい)さんを見やり、美善さんは、大きく息を吐いた。

「……最近の動向は、知らなかったってのは本当のようだな」

「――……死んだ……とは……」

「三年前、自損事故であっけなく」

 そう、事実だけを報告する美善さんを、お祖父(じい)さんは、驚いたように見つめた。
 そして、目を伏せる。

「……そう、か。……死んでしまった、のか……」

「親父には、言って無ぇ。――そもそも、一度も連絡したコトは無ぇから」

「――……わかった。……私の方から伝えておく」

「――……ああ」

 絞り出すような声音に、美善さんは、少しだけ緊張を解いたようだ。
 私を見下ろすと、掴んでいた手を軽く叩いた。
「……大丈夫だ、月見」
「……うん……」
 にじんできそうな涙をこらえながら、私は、うなづく。
「――……だから、もう、会う事は無ぇから」
「美善?」

「この先、コイツのような、お家騒動に巻き込まれるとも限らねぇ。もう、オレとは、完全に縁を切ってくれ」

「美善さん!」

 お祖父(じい)さんは、目を見開く。
 けれど――少しだけ、悲しそうにうなづいた。

「……そう、だな……。――……わかった」

「興信所も無し、だからな」

 美善さんが、念を押すように言うと、お祖父(じい)さんは苦笑いでうなづき、私に視線を向けた。

「――……ひ孫の顔が見られないのは残念だが――」

「――……っ……!!!」

 私は、一瞬で沸騰し、アワアワと美善さんを見上げた。
「からかうんじゃねぇよ」
「済まないな。――ああ、でも、良かった」
「え?」


「――幸せそうだ」


 そう言って穏やかに微笑んだお祖父(じい)さんは――やっぱり、どこか、美善さんに似ていて――そして、何だか、パパとも重なった。

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