甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
「――じゃあな。少しの間、離れるけど、我慢できるよな?」
「……子供じゃないんだから……」
空港のロビーで、再確認するように言われ、私は眉を寄せて美善さんを見上げた。
「毎日毎日、言わないでよね」
「だって、さみしがるだろ、お前」
「だっ……大丈夫だもん!」
「オレは、さみしいけどな」
「――……っ……!!!」
不意打ちのように言われ、硬直。
そして、思わず、少し距離を取って様子をうかがっている増沢を振り返ってしまった。
私が、空港まで見送りに行くと聞き、心配してついて来てくれたのだ。
「……そ、そりゃ……私だって、さみしいけど……」
「早いトコ済ませて、帰って来るからな」
「――……うん……」
そして、美善さんは、その大きな身体をかがめて、耳元で言った。
「――そしたら、思う存分、甘やかしてやるぞ?」
「……っ……!!!」
私は、真っ赤になって彼を見やる。
すると、口元を上げて返された。
「……や、やらしい意味でしょ」
「そう取ってもらっても良いがな」
「――……バカ」
睨んで返せば、クッ、と、笑いをこらえられた。
「もう!」
「ふてくされるな」
すると、搭乗アナウンスが聞こえ、急に現実に引き戻されるような感覚になる。
「――……じゃあ、行ってくるな」
「……うん。……気をつけてね……」
少しだけ震える声になってしまったのに、気づいた美善さんは、優しく頭を撫でてくれた。
「大丈夫だ。必ず、ちゃんと、帰って来るからな」
そう言って微笑むと、名残惜しそうに手を離す。
「――うん」
私の中のトラウマ――両親が、飛行機事故で亡くなったというコト――は、未だ、根を張っているけれど。
美善さんが、それを、上書きするように私を包んでくれているから、頑張ってみようと思えたんだ。
彼が、アメリカに行くと決めてから、毎日のようにくれる甘い言葉も――きっと、そういうコトなんだと思う。
去って行く姿を見送りながら、私は、震える手を握り締めて、笑顔で叫んだ。
「行ってらっしゃい!」
美善さんは、振り返り、笑顔で手を上げて返した。