甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
 それから、増沢と二人、デッキに出ると、飛行機が見えなくなった空を見上げる。

「――行かれましたね」

「うん。――いろいろと、やらなきゃいけないコトがあるんだから、しょうがないよ」

「――しかし、それが終われば、お互い、もう縛るものは何も無い、という事ですね」

「そういうコト」


 これで、私達は、自由なんだ。

 そのためなら――余裕で待っていられる。


 私は、胸の中のさみしさを隠すように、増沢に言った。

「でもさ、増沢。本当に、ウェディングドレス、もらっても良いの?」

「ハイ。――家内が着た、(ふる)いものでよろしければ、ですが」

「もちろんじゃない。見せてもらったもの、すっごく可愛かったわよ!」

「お気に召したのなら、幸いでございます」

 美善さんとの結婚式は挙げず、ウェディングドレスを着た写真を撮るだけのものにした。
 でも、両親が抱えていたものは――やっぱり着ようとは思えなくて。
 そう話したら、増沢が、亡くなった奥様が着たものが、まだ残っていると言ったのだ。
 なので、譲ってもらうコトにした。

「……ですが……本当に、お式はよろしかったので?」

「うん。やっぱり――それは、いろいろ面倒になりそうだから、やめておこうって、二人で決めたの」

「さようでございますか。ならば、増沢が口を出す事ではございませんね」

「ありがと」

 私は、うなづいて、再び空を見上げる。
 美善さんが帰ってきたら、二人で写真を撮って、婚姻届けを出す。
 それで――私達の結婚に関するすべては終了だ。

「――ねえ、増沢」

「ハイ」

「……私ね、パパとママが死んじゃうなんて、思ってもみなかったから……ずっと、どうやって生きていったらいいのか、わからなかった」

「……ハイ……」

「でもね、増沢がいてくれて、美善さんがいてくれて――会社の人達や、周りの人達、いろんな人に少しずつだけど助けられて、やっと、前に増沢が言ったコトが、わかった気がする」

 私は、今までと同じように、後ろで控えている増沢を振り返った。


「――……生きていくって、いろんな人と、かかわっていくってコトなんだ、って」


「……さようでございますね」


 増沢は、おだやかに微笑み、うなづいた。


 ――デッキから見上げる景色は、私の記憶を塗り替えるように、青でいっぱいだった。
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