甘い生活を夢見る私は、甘くない彼に甘やかされる
エピローグ
「――ただいま、月見」
「お帰りなさい、美善さん!」
約束通り、無事に帰って来た美善さんと、婚姻届けを出して半年が過ぎた。
もう、あたりまえの日常のように、彼との生活が続いている。
私は、エプロン姿のまま、玄関へダッシュしようとし――慌てて早足になった。
「――月見、今日の書類、チェック入れといたからな」
「ええー⁉完璧だったはずなのにー!」
「どこがだ!いい加減、ちゃんと、隅々まで確認しろ!早退する予定だったら、なおさらだ」
「……ごめんなさいー……」
帰って来るなり、仕事の話題。
今日は、どうしても早退する用事があるから、午前中に急いで書類を仕上げたのに。
でも、シュンとした私を、美善さんは苦笑いで抱き上げ、軽く頬にキスを落とした。
「拗ねるな、奥さん。――後で、ゆっくり甘やかしてやるから」
「……バカ」
彼の言う、甘やかすは、ちょっとイヤらしい意味だ。
いつもなら、それでも照れながらうなづくけれど、今日は――いや、もう、しばらくはダメなんだと、表情を引き締める。
それを敏感に察知した彼は、眉を寄せて私をのぞき込んだ。
「……おい、機嫌直せよ」
「……そういうんじゃないもん」
「っつーか、最近、情緒不安定だぞ。また、何かあったか?」
「……あった……は、あった」
「何だ、そりゃあ」
いぶかしげに見やる彼の腕から下ろしてもらうと、私は、リビングに向かい、サイドボードに置いておいたものに手を伸ばした。
「月見?」
「――……ん」
どう言ったらいいのか、わからない――ので、まるで、子供のように、それを彼に差し出す。
「――……っ……!!!」
息をのんだ彼は、勢いよく――でも、優しく、私を包み込んだ。
私の手には、今日、貰ったばかりの――母子手帳だ。
「――……今日の早退って……コレ、か……?」
「う、うん。……昼からお医者様に行って……確定だって言われたから、すぐに、もらいに行ったの……」
最近になって、生理が止まっていたと気づき、パニック状態。
それに振り回されていた美善さんの、心配そうな表情を見続けて――ようやく、覚悟が決まったのだ。
怖さもあったけれど、これ以上、彼を不安にさせたくないと思ったから。